2019/4/15

「強制性交」と「準強制性交」  憲法・社会・官僚・人権

 名古屋地裁岡崎支部での「19歳女性に対する父による準強制性交」−中学2年生当時から性的虐待があり学費を出してもらっていたことなどから抗拒不能として、強制性交罪ではなく準強制性交罪で起訴−の無罪判決についての補充です。

 判決文に接することが出来たという伊藤和子弁護士の記載によれば、起訴された事件の「2017年8月と9月の性交」では物理的な抵抗はないが、「7月後半から、8月の性交の前日までの間」「こめかみのあたりを数回拳で殴られ、太ももやふくらはぎを蹴られた上、背中の中心付近を足の裏で2、3回踏みつけられた 。」
ということでした。

 その他報道などされて知られている以外にも、実に色々な事実が判決文には記載してあるはずですが記載なく、記者クラブに配られたと思う「判決要旨」も出ておらず、もとより証拠は見れていないので、下記はあくまで推察です。

すなわち、下記の高松高裁判決S47.9.29及び大審院T13.11.7からして、有罪とする可能性を高めるために、刑法178条「準強制性交」ではなく177条「強制性交罪」で起訴する又は訴因変更をすべきだったところ、これをしなかったからという可能性が相当にあるのではと思いました。

 それは、検察側の凡ミスか、178条準強制性交の「抗拒不能」概念を拡げて今後役立てようとする判例づくりのために178条にこだわった感覚があったのかも、と推測します。


 177条と178条は、強盗と窃盗のように大小の関係ではなく、選択的になってしまうので、「どちらかで有罪にせよ」という起訴ができないものです。

 私は、立法論的には、重なる部分がどうしてもありこの事態が生じてはならないから、
@ 特例的に両方での起訴を認めるとか、
A 統一した条文に入れ込むとか、
B 更にその中では「抗拒不能に近いもの」と「反抗を著しく抑圧するに近い暴行または脅迫」で成立させるという併せて一本みたいなことも可能、という条文にしたらどうかなあ、と思ったりもします。

 なお、177条につき「暴行・脅迫」ではなく「同意」要件とするのは、むしろ、高松高裁事例などは無罪になると思われ、妥当ではないと思うんです。


 下記に2つの判例をやや詳しく転載します。


  **********
 高松高裁S47.9.29(判例タイムズ291号276頁、最高裁に上告したが判例集で見つからない、そのままだったのだと思われます)
要旨
 強姦罪における脅迫が姦淫時より約2週間以前に加えられたものであり、しかも、女子が男子に事前に電話連絡をして時刻と場所を指定し、その結果行なわれた姦淫が、外観上はごく自然で通常の男女間の情交と認められるような状態のものであつても、それが、犯人の右脅迫によつて、被害者が精神的に抗拒する気力を失つていることによるものであるときは、強姦罪が成立する。

控訴を棄却した理由の関係部分
 男女間で姦淫の行なわれるにあたり、事前に女子が男子に対し電話連絡をし、女子自ら姦淫の場所と時刻を指定し、その結果同場所で行なわれた姦淫も外観上は極く自然で通常の男女間の情交と認められるような状態においてなされているものであつても、

前記場所等の指定および自然の状態で行なわれたかのように見える姦淫が、それ以前に加えられた犯人の脅迫行為によつて、被害者が精神的に抗拒する気力を失つた状態に陥り、その状態が継続していることによるものであつて、犯人が被害者のその状態に乗じ強いて姦淫した場合には、

たとえ、脅迫行為時と姦淫時との間に一四日間の経過があり、姦淫行為が外観上は通常の男女間におけると同様な状態で行なわれたとしても、脅迫と姦淫行為との間の因果関係は中断されることなく存在するのであつて、脅迫による刑法一七七条前段の強姦罪が成立するというべきである。

 被告人は、被害者が万引でつかまり警察へ申告されるのをおそれているのに乗じ、同女に対し前記の脅迫を加えて同女を畏怖困惑させ、同女をして精神的に抗拒する気力を失わせる状態に陥しいれたうえ情交の承諾を余義なくさせ、その状態が続いている状況のもとで同女が被告人の指示に従い同被告人に電話をした際、同被告人の求めにより同女に情交の場所として旅館某を指定させ、次いで同旅館において同女が精神的に抗拒する気力を失つていて同被告人の意のままになるのに乗じて強いて姦淫の目的を遂げたのであるから、被告人の右一連の所為は、刑法一七七条前段の強姦罪にあたることが明らかである。*****

 また、同女が捜査機関に対し被告人からの前記脅迫の被害を告訴しなかつたことは所論指摘のとおりであるが、同女は自己が万引したことを警察に知られることを最も怖れていたのであり、右脅迫被害を警察に届出ることは同時に自己の万引の事実を警察に申告する結果になることは明らかであるから、同女に対して右の告訴を強いることは自己の万引(窃盗)を自白させるに等しいことであり、被告人は同女の弱身に付け込んでの犯行であつて、
 
精神的に抗拒の気力を失い思い迷つていた同女に対し右の告訴をしなかつたのを責めることは酷であるから、右の告訴がなかつた事実を捉えて、本件姦淫につき合意があつた証左とすることはできない。***

 なるほど、弁護人ら主張のとおり、暴行・脅迫の行為時と姦淫時との間には一六日間の経過があり、その間に同女が被告人と情交関係を結ぶため三回にわたつて同被告人に電話しており、前記ホテル某客室での情交が外観上は極く自然にみえる状態において行なわれていることは所論のとおりである。

しかしながら、被告人は、同女が万引でつかまり警察や同女の内縁の夫にその事実を申告されるのをおそれているのに乗じ、同女に対し、前記暴行・脅迫を加えて同女を畏怖困惑させ、同女をして、精神的に抗拒する気力を失わせる状態に陥しいれたうえ情交の承諾を余儀なくさせ、その状態が続いている状況のもとで三回にわたつて自己指定の日に電話をさせ、次いで同ホテルにおいて同女が精神的に抗拒する気力を失つていて同被告人の意のままになるのに乗じて強いて姦淫の目的を遂げたのであるから、被告人の右一連の所為は、刑法一七七条前段の強姦罪にあたることが明らかである。 

 *********
大正13.11.7、大審院判決、大審院刑事判例集3巻783頁―当時の最高裁です。当時の罪名は強姦罪です。
 「暴行・脅迫」により抗拒不能にして姦淫した場合は、「準」ではなく強制性交罪になるという判例です。

 これは、睡眠中の女性(そもそもの抗拒不能)に対する準強姦致傷被告事件であり、被告側の上告理由は、指を入れたが抵抗されたことに拠る傷害は「準強姦強制猥褻の致傷事件」ではなく「傷害罪に止まる」という主張で、これを認めず準強姦致傷だとした判決でした。
 
 すなわち、睡眠という「抗拒不能」が先にあって、偶々の暴行による傷害は「準強姦」の際の傷害だから「準強姦罪致傷」となる、逆に言えば偶々ではない暴行・脅迫は−それにより抗拒不能となっても−「強姦罪」だ、という意味の判例となっているものだろうと。
 以下読みやすくするために、行替えをしつつ出します。

大審院刑事判例集3巻783頁 要旨
「抗拒不能ニ乗シ姦淫スルニ方リ偶偶暴行ヲ加フルコトアルモ
単ニ姦淫ノ附随行為ニシテ其ノ手段ト為リタルモノニ非サルトキハ
刑法第178条ニ問擬シテ処断スヘキモノトス」

内容
「原判示事實ハ被告ハ前略女子乙(當二十一年)カ他ノ子女ト共ニ同家六疊ノ間ニ寢臥シ居タルヨリ之ヲ見ルヤ直ニ劣情ヲ催シ乙ノ睡眠中ニ抵抗不能ナルニ乘シ姦淫セント欲シ
同人ノ陰部ニ指ヲ挿入シタルニ乙ニ於テ
飛ヒ起キ大聲ヲ發シタル爲其ノ目的ヲ遂ケサリシモ
同人ノ陰部ニ全治五十餘日ヲ要スル傷害ヲ負ハシメタルモノナリト云フニ在リテ
原判決ハ前點ニ於テ説明シタルカ如ク
刑法第百七十八條ノ強姦罪ニ因リ乙ノ陰部ニ傷害ヲ負ハシメタル犯罪事實ヲ認定シタルモノトス

然リ而シテ人ノ抵抗不能ニ乘シ姦淫スルニ方テ
偶暴行ヲ加フルコトアルモ其ノ暴行タルヤ單ニ附隨的ニシテ姦淫ノ手段ト爲リタルモノニ非サルトキハ
刑法第百七十八條ノ強姦罪(滝本注:準強姦罪の趣旨です)ノ成立ヲ妨クルコトナシ

故ニ叙上ノ罪ヲ犯スニ方リ此ノ種ノ暴行ヲ加ヘ因テ人ニ傷害ヲ負ハシメタルトキハ
同法第百八十一條ノ罪(滝本注:致傷罪の趣旨です)ヲ構成スルモノト論斷セサルヲ得ス
原判示事實ハ前段所掲ノ如クシテ
被告カ睡眠中ノ乙ノ陰部ニ指ヲ挿入シタルハ同人ノ意思ニ反シ其ノ身體ニ有形的ニ力ヲ加ヘタルモノニシテ即チ暴行ニ外ナラス

然レトモ被告ハ乙ノ睡眠中抵抗不能ニ乘シ姦淫セント欲シ唯指ヲ同人ノ陰部ニ挿入シタルニ止リ
之ニ依リ乙ノ身體ヲ抑制シテ姦淫セントシタルニ非スシテ
單ニ附隨的行動タルニ過キサルヲ以テ
其ノ所爲刑法第百七十八條ノ強姦罪(滝本注:準強姦罪の趣旨です)ニ該當スト雖

之カ爲ニ被告ハ乙ノ陰部ニ傷害ヲ負ハシメタルコト原判決ノ判示スル所ナレハ
其ノ所爲刑法第百八十一條ノ罪(滝本注:致傷罪の趣旨です)ヲ構成スルモノトス
原判決ハ畢竟叙上ノ趣旨ニ於テ判示シタルモノナレハ
所論ノ如キ不法アルコトナシ論旨理由ナシ」
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