▽米本土で最も高い山
全米で一番高い山といえば、冒険家の植村直己さんが行方不明になったアラスカのマッキンリーが

有名だ。しかしカリフォルニアには、アラスカとハワイをのぞいた米本土で一番高いマウント・ホイットニー(Mt. Whitney、14495ft、標高4418m)がある。この山に登るのは数年先のことと思っていたが、今回、山仲間のKさんのおかげで登ることができた。
6月に登ったマウント・シャスタ同様、今回も
10,000ft(約3000m)を越えた辺りから幻覚やめまい、眠気に襲われた。極度の疲労から予想以上の遅いペースに陥り、登りだけで結局、予定の倍近い約12時間かかってしまった。往復22マイル(35キロ)を1日で歩き通したため、最後には足を引きずるようにして駐車場に到着したころには辺りは真っ暗。トータルで17時間半かかった。
しかし前回に比べ雪の部分が少なく装備も軽く済んだことと、景色が予想以上にすばらしかったのが幸いし、下山した後もさらに7時間以上車を運転してベイエリアに戻ってくることができた。
予想以上に大変だったけど、Once in a lifetimeの経験ができた今回の登山行を以下に紹介します。
▽パーミットが取れない
アメリカでは名の知れた高山や自然保護区、国立公園の一部などに入る時には、許可がないと立ち入れない。マウント・ホイットニーも同様で、パーミット(許可)を取るためにはForest Serviceが管理する、2月に行われるくじ引き抽選に申し込むか、それを逃したら日帰りの許可を後日直接申し込むしかない。
昨年からKさんと「ホイットニー登れたらいいね」なんて話していた。しかし2月のくじ引きには間に合わなかったので、その後直接申し込もうと思っていたらすでにパーミットの数がほとんどなくなっており、今年はあきらめるか、なんて思っていた。
▽Kさん、パーミット奪取
しかし駐在期間が来年中には

終わるとほぼ決まっているKさんが、Forest Serviceに電話をかけまくり、なんとか日帰りのパーミットを根性で奪取した。その話を前回のマウント・シャスタの登山前に聞いた僕ちんは「やるのう〜、Kさん、人間何事も執念ぢゃ。頑張ってね」と感心した。
▽へ? ぼ、僕も行くんすか?
以前、2人で相談していた時とは違う日程だったので、てっきり僕はKさんがほかの誰かと一緒に行くものと思っていた。ところがマウント・シャスタ登山中に、再びそのことを僕に話したKさんは、メガネの奥の目をいたずらっぽくきらりと光らせながら言った。「中村さんも行くんですよ。よろしく」−。へ? 僕っすか? 僕も行くんすか? ホイットニー、日帰りっすか? ちょっと待ってよ、やだよー、勘弁してよー、$20あげるからさー、ともいえず、その時は「生返事しておけばKさんは忘れるだろう」と思って「へえ、へへえー」とヤギのあくびのような相槌だけ打っておいた。
しかしマウント・シャスタからの帰り道、「ところで次のホイットニーですけど…」とKさんが話しかけてきて、僕は心のなかで「あっちゃー、覚えてやがった」と舌打ちをしたが遅かった。知り合いからは出入り含めてキャンプしながら1週間見ておいたほうがいいといわれていたコースなので、日帰りと聞いて既に心の中では降参気分が万延。登頂をあきらめ、シェルパとして荷物だけ見てよーっとひそかに心に誓ったのだった。
▽遠いよー
マウント・ホイットニーは、カリフォルニア州東側のシェラネバダ山脈の中にある。正確にはセコイア・キングスキャニオンNPの南東側の、Inyo National Forest内にあり、ゲートウエイはローンパインだ。ローンパインまで行くのに、ヨセミテ東側のタイオガパスが開いている夏の間は、120号線を通ってSFベイエリアから約7時間、僕の自宅からは9時間かかる。遠いのだ。
決行日の7月1日、午前3時半に起床。同4時過ぎに自宅を出て、

Kさん宅へ着いたのが午前6時前。ここから2人で580号線をひたすら東へ向かい、120号線東行きにのってヨセミテに入ったのが同10時ごろだった。トゥオルミメドウズを横目に、タイオガパスを抜けてLee Viningへ出たのがお昼前。そこから395号線を約1時間南下。ゲートウエイのLone PineにあるNational Forest Serviceのオフィスには午後2時過ぎに着いた。自宅を出てから10時間。遠かったよー。それにしても暑い。40℃くらいあるんじゃないかと思うくらいの熱気。超乾燥しているので暑さ自体は身にこたえないが、日差しの下へ出ると身体が溶けそうなくらい暑い、まったくの砂漠気候だ。
▽奇跡、キャンプ場が開いてた
決行した日は独立記念日の週末で、キャンプ場もどこも開いていないと思っていたので、予約を取ろうとすらしなかった。Kさんとは、National Forestはそれほどうるさいこといわないので、オフィスでパーミットをもらったあとに登山口の近くにある駐車場で仮眠して、夜中から登り始めようと相談していた。しかしパーミットをもらってもまだ午後3時過ぎ。いちおう、登山口まで行ってみることにした。
登山口に近いファミリー用のキャンプ場は案の定、

空いている気配すらなかった。しかし係のおっちゃんが「おお、山へ登るんだな。予約がないんだったら、ここから1マイルほど上がったところに、ハイカー用の小さなキャンプ場があるから、空いていたら使っていいんだよ。早い者勝ちだからグッドラック」と教えてくれた。まあ、もう午後も遅いから今さら空いてないよな、とKさんと話しながら取り合えず現地へ向かう。
▽トレイルヘッドに釣堀も
向かった先には大きな駐車場があり、ここがどうやらホイットニー・ポータルと呼ばれる本当のトレイルヘッドらしい。売店や登山に関しての展示パネルのほか、珍しく釣堀まである。

駐車場は満杯で、少し下のほうに車を停めて辺りを見回った。するとおっちゃんが言っていたキャンプ場らしきものがあり、中を偵察すると全部で12、3サイトあるうち、まだ半分も埋まっていない。しめた。車中で仮眠かと思っていたが、サイトが空いているのならキャンプした方がぐっすり寝られる。早速サイトを押さえ、料金を封筒に入れて自己申告した。
▽テントなんか建てないよ
といっても

怠惰な僕ちんと年季の入ったベテランキャンパーのKさんが素直にテントを建てるわけがない。僕たちはテントを張らず、グラウンドシートの上に直接寝袋とビビサックを置いて、戸外でそのまま寝ることにした。だって天気がいいし、寒くないしテントがなくても十分寝れる。怖いのはクマくらいだな。
それにしてもまだ夕方の4時過ぎ。

1回昼寝でもしようということで、辺りにいびきを轟かせて寝入ってしまった。目が覚めるとすぐ隣のサイトに、イラン人の親子(後で分かった)が来てテントを張っている。目を覚ましたKさんが「あそこもウチのサイトだと思うんだけどな」と文句言っていたが、まあいいや、と思いほうっておくことにした。
午後6時近くになったので夕食を用意。Kさんはカップヌードルで、僕はフリーズドライのチキンライス。Kさんはずっと本を読んでいたので、僕はキャンプサイトの中心にあったダイニングテーブルの方へ行き、そのへんにいた人とバカ話しながらご飯を食べていた。
隣のサイトのイラン人親子もそのテーブルにおり、飯くいながら雑談していると、50代前半に見える親父の方はマウント・ホイットニーにこれまで何回も登っているらしい。話を聞くと、決して日帰りできない登山ではないという。ほえ、そうなの? 何でも登りに7時間、下りに5時間で、往復22マイル(35キロ)と長いが、日帰りは楽勝とのこと。
その言葉を信じて、翌朝は午前2時に出発予定としていたのを午前3時半に修正。まだ外は十分明るいが、周りのみんなにあいさつして早めに眠りについた。さて、翌朝はいよいよ登山。どうなることやら。続く。
※写真1〜6はKさん撮影です。

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