
その4からの続き。
▽クマの爪あと
River Trailは川沿いの峡谷を抜ける快適なルートだ。歩き出しは牧場の横の湿地帯。雪がかぶっている箇所もあったが、1マイルも進むと壮大な峡谷が開けてくる。
勾配はそれほど急ではなく、50分歩いて10分休むくらいのペースで森の中の道を約2時間ほど進んだ。
ロッジポールの幹には、クマの爪あとがガリガリ残っている。マンザニータの淡いピンクの花が美しい。川は水量が豊富で、所々に滝がほとばしる。
冬の間にたまった雪と氷

が、夏に向けて一気にエネルギーを放出しているかのようだ。
8000ft.くらいまでは、 →続きを読むをクリック

トレイルにはそれほど雪がなかった。しかし9000ft.を超えた辺りからトレイルは50%以上雪に見え隠れするようになった。
▽トレイルはどこ?
Garnet Lakeからのアウトレットは、急斜面を何段にも別れて乱れ落ちてくる。山頂から元気に搾り出された水しぶきは白い影となって峡谷の底へ一気に落ち込んでくる。

このGarnet Lakeからのアウトレットと出合うジャンクションから上では、勾配が急になってきた。雪も徐々に増えてきた。トレイルの状態も体調も、登るにつれて悪くなっていった。
トレイルは厚さ1メートルの以上の残雪で、所々隠されていてトレースできない。いったん雪で覆われた場所に出くわすと、あとは勘で方向を探り出すしかない。目を皿のようにして、わずか切れ切れに見える地表を視線で追い、トレイルのきれっぱしを探し出す。
かつてThousand Island Lakeまでトレイルを歩いた経験のあるKさんにリードしてもらい、4つの目でレーダーのように地表をなめ回し、方角をまさぐる。
▽だんだん体調が崩れて

体調は2人ともだんだん悪くになってきた。まず僕ちんは、今年初めての9000ft.地点まで、まったく高度順応させることなく一気に上がってきたのが裏目に出たのだろう。なんとなく頭痛が出てきて、呼吸が格段に苦しくなってきたのに気づいた。
止まっては大きな深呼吸を繰り返し、また数歩動き出すだけで息が切れる。かつて14000ft.まで数回上がったことがあるので、こんなはずではないと自分に言い聞かせるのだが身体がついていかない。
前を歩くKさんも息が上がってきたようだ。なんとなく足取りが重くなっている。一瞬、マウント・ホイットニーへ登ったときのことを思い出した。それまで僕のかなり先

を快調に飛ばしていたKさんが、12,000ft.を超えた辺りからがくんとペースが落ち、頭痛でふらふらになっていったのだ。
▽湖がない
とにかく地図を頼りに、川の右側をキープして雪の上を登り続け、トレイルらしき跡をたどり続ける。Thousand Island LakeのOutlet手前では、雪で完全にトレイルが消えた。「あらー、ここだと思ったのに湖はどこへいったんでしょうね」と苦笑いするKさんの勘だけで、こっちと思われる方向へ足を向ける。

僕はだんだん痛くなる頭と重くなる足、つぶれそうな肺にあえぎながら、一歩一歩雪と岩を超え続ける。15分近く歩いただろうか。先を歩いていたKさんが「ここ、ここ、着きましたよ。JMTですよ」と声を上げる。
▽ようやくJMT到達
重い頭をよっこいしょ、と持ち上げると「←JMT→」と書かれたサインが見えた。Thousand Island Lakeは雪と氷に覆われ、自慢の青い水面は見えない。しかし湖の数マイル奥に威容を構えるBanner Peakの雄姿がひときわ素晴らしい。

キャンプサイトをまず探す。夏にはかなりのキャンパーがテントを張るらしいが、オープンしたばかりの今日は、僕たちのほかにだれもこのトレイルでキャンプをしようとする人はいないらしい。でーんと構えた重々しいBanner Peakと無数の島を内在する湖、雪と氷と静けさ…。
流れる雲を見ているだけで、感動で身体が震えてくる。寒さと頭痛もあったためだろうが、とにかく身体が震えた。天上の楽園があるとしたら、まさにこういう場所なのだろう。しかしこの静寂の楽園にいつまでも見とれているわけには行かない。

僕とKさんはこの最悪の体調で、無事にテントを張ることができたのだろうか。
その6へ続く。
※7枚目の写真はKさん撮影。5枚目の写真で寝てるのと1枚目、9枚目に写ってるのは僕じゃあありませんぞ。Kさんです。

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