
▽げげ〜、確実に近づいてくる
クマはこちらに気付いているのかいないのか、ゆっくりではあるが確実にこちらへ近づいてくる。それほど大きくはない。体長1.8mくらい、3歳くらいだろうか。
さらに来た道を戻り、クマがついてくるか様子をうかがう。げげ〜、再び付いて来ている。もう心臓が胸から飛び出すかと思うくらい、速く打っている。距離は約80m。
だがよく見ると、クマは落ち着いているようだ。こちらが勝手にあわてているように思えた。そこで大声を出して威嚇することにした。クマが1匹だけで落ち着いて見える場合は、威嚇すると大概向こうから逃げて行ってくれる。
▽脅かすのもケースバイケース
しかし親子連れの場合やいきなりトレイル上で目の前に出てきたときなどは、 →続きを読むをクリック
絶対に威嚇してはいけない。ケースバイケースだ。
幸か不幸か、ヨセミテには凶暴なグリズリーはいない。比較的おとなしいといわれるブラックベアだけだ。目の前にいるクマも、シナモン色はしているがブラックベアだ。
大声で叫び、岩をクマに当たらないように注意しながら投げてみた。それでも近づいてくる。そこでさらに大きな怒気を含んだ声でこちらから数メートル近づいて叫んでみた。
▽写真はボケボケ
そのとたん、クマが一瞬ひるんだように見えた。距離は約60mくらいだろう。歩行を停め、鼻を上げて周囲のにおいをかいでいるように見えた。向こうも様子をうかがっているようだ。
ここで写真を撮る。そんなもん撮ってる場合じゃないだろう、と怒られそうだが、ブログに載せなきゃ、と変なこだわりが頭をもたげる。3枚シャッターを切ったが、やはり相当焦っていたのだろう。ISO感度を上げたりシャッターすピートを調整したりするのを忘れており、写真はどれも手ぶれのボケボケの情けない写真だった。
また大声を出す。さらにクマがなんとなくひるんだように感じたので、追っ払うのは今しかない、と思った。勇気を振り絞って一気に岩を投げながら、大声をあげさらにクマのほうへ向かって近づいた。
このとき、鼻を左右に振り回し雰囲気を確かめていたクマが「やれやれ」というような表情でトレイルからはずれ、左手のがけ下へ下りて行くのが見えた。助かった〜。
▽クマの生活圏
どうもそこはこのクマの通り道だったのだろう。いつも通っている縄張りのルートなのに、たまたま今日は人間がいた。クマ自身も「僕はこっちへ行きたいのに、仕方ないなー、どうしようかなー」と迷っていたのだと思う。
クマの生活圏をこんな早朝に通りかかる僕たちの方が悪いのだが、こっちもやられたらたまらない。ここまで他のハイカーともレンジャーとも会わなかった。
左のがけの約50m下からは、まだパキパキという枝を踏みしめる音がかすかに聞こえていたが、トレイルを早足で登りその場を離れた。Sさんは「野生のクマと出くわしたのは初めて」と、相当緊張したようだった。
▽クマづいている今年

緊張の場面から約20分後、ネバダ滝の上に出た。先ほどの緊迫した空気を洗い流すようにしばらく休みを取り、滝の流れを見つめた。よく考えてみると、今年はなんかクマづいている。
シャスタへ行った時には子熊が車にひかれて死んでいるのを見た。ヨセミテでは車の中からだが、既に数回クマを見ている。
家に帰ってきてからNPSのサイトを見ていたら、僕の取った行動は岩を投げたことをのぞいては、極めて適切なクマ対処法だったことを改めて確認した。向こうが落ち着いていたら、とにかく威嚇して追っ払え、逆に緊張していたらじっとして動くな、と。
▽初めて他のハイカーに出会う

Sさんがトイレへ向かう。ここで今日初めて、他のハイカーと出会う。7、8人のグループで、ミストトレイルから上がってきた。20代前半の若い男女だった。彼らを尻目に、先を急ぐ。
予定では午前3時半にトレイルヘッドを出発。バーナル滝の見える橋に同4時15分。クラークポイントに同5時過ぎ。リトル・ヨセミテ・バレーに同6時過ぎに着いたら、ハーフドームの森の中を約1時間半、石段で約1時間、ケーブルで約30分で、各所で休憩をすると午前10時半には余裕で頂上に到達すると見ていた。

リトル・ヨセミテ・バレーには約30分で着いた。それまでの登りがいったん終わり、なだらかなキャンプ場とパインの森が広がる。今年は雪が少ないので、この上の泉は出ていないだろうと予想し、キャンプ場近くのマーセド川で水を補給し、しばらく休憩した。

今回はポンプを持って来なかったので、浄化剤(Iodine)を使う。Sさんは初めてらしい。
▽ハイペースをキープ
ここからほとんど休憩を入れず、一気に森の中の急な登りにトライした。月例ハイキングのときは10分〜20分に1回は休みを入れるが、今回は40〜1時間に1回しか休みを入れず、なるべくハイペースで先を急いだ。
左手に朝日に照らされたハーフドームが見えてきた。巨大だ。あれ、ほんとに登るの? といつもながら見とれてしまう。真横から見ているので、どことなく寝ぼけたラクダに似ている。

▽ニュージャージーからの4人組
森の中で初めて休んだ所で、ニュージャージーから来た教会系のユースグループの4人組と話す。この辺りから他のハイカーが目立ってきた。しかし数はまだ少ない。彼らはリトル・ヨセミテ・バレーでキャンプして、朝6時半に出発したとのこと。リーダーが40代、アシスタントが20代、あと2人は10代だろう。
僕らが午前3時半にバレーを出発してきたというと、相当驚いていた。キャンプ用品などをバックパックでかついてきたのならびっくりするくらいのスピードだろう。しかし僕らはデイパック1つ。このくらいの荷物だったら、だれでも僕らくらいのスピードで上がってこれる。

彼らとは途中何回か出会い、そのたびに言葉を交わした。その中の1人が僕と同じ大学院で修士号を取得していることが分かり、親近感が増した。
この後もハイペースで登り続けたSさんと僕は、予想より相当早く森のトレイルを抜け、午前8時半には階段下に到達した。
▽急いだ理由
なぜこれだけ急いだかというと、July 4thの週末であるため今日は相当の登山者がいると予想されること、午前11時を過ぎるとケーブルに数珠繋ぎに人が群がり、登り始めるまでに1時間は下で待つだけになってしまい時間を食いすぎることなどが考えられるからだ。

ここからが僕が一番嫌いな個所だ。前回ここへ来た時は山の先生のグループのアシスタントだったので、一番遅い人を後ろからアシストして行き、ここだけでたっぷり1時間かかった。
▽やれやれ、階段かよ〜
今回はどうだろう。日差しが強くなってきた。照り返しがきつい。やれやれ、と思いながら高い段差のある石段に足をかけたところで一気に心臓が高鳴り始め、息が上がり始めた。
果たしてケーブル下まで無事到達できるだろうか。
その4へ続く。

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