【ミトゥンの儀式 002】
僕よりは一回りは歳上だろう、落ち着いた感じの女性でやや濃いめの眉毛と長い睫毛、それから妙に赤い唇が目を引く。
が、それだけではない。
「どうかなさいましたか、ヌナタ様?」
「いえ、その……」
顔が熱くなるのをおさえられない。間近に見る彼女の顔は、単に美しいというばかりでなく、ひどく艶めかしかったのだ。
顔立ちばかりでなく、彼女は物腰も婀娜っぽさにあふれていた。男なら僕でなくたって、いやきっと同性であっても彼女が発散する色香には注意を引かれずにはおかないのではないか。
別に神人が禁欲を強いられているわけではないから無理に気づかぬ振りをする必要もないのだが、それにしてもこの匂いたつ色香の濃厚さは尋常一様のものではなかった。
「あ、あなたはいったい……。僕のことを見知っておられるんですか」
僕の問いに、彼女は「あ」と口元を指先でおさえた。その仕草がまた色っぽい。
「これは申し遅れました。わたくしイレイと申します。ティワイの郷からやってまいりました」
ティワイの郷。聞いたことがない。僕でなく表情を読んだのか、イレイと名乗った女性は、
「不思議に思われることはたくさんあるかと思います。でもそれにお答えする前にひとつわたくしのお願いをきいていただきたいのです」
「お願い?」
聞き返す僕にイレイは、どこかせっぱつまった調子で言った。
「はい。ヌナタ様のお部屋で、ふたりきりで」
彼女のうるんだ目が僕を見つめている。
つづく

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