第23回新宿御苑洋らん展11月17日(木)〜27日(日)に行ってきました。

受賞したシンビジュームの花に、大きなスズメバチがやってきたので、思わず接写で撮ってしまいました。
ハチの重さで花びらがぱっくりと口を開けています。
ハチがとまっている花びらは、唇弁と呼ばれる部分。
写真では、まっすぐ上に突き出しているのが蕊柱(ずいちゅう)で、先端の丸くて白いキャップの下に花粉塊が隠れています。
写真ではよくわかりませんが、キャップのすぐ下のくぼみが柱頭になっています。

ハチが唇弁をはい上がって行くにつれ、重心が移動し、花弁の弾力で口が閉じていきます。
ハチの背中にキャップがふれています。
うまくすると、ハチが後ずさりする時にキャップの下側から出ている粘着部分が背中にはりついて、花粉塊をくっつけることになります。

ハチはしばらくの間、蕊柱の根元にたまった蜜をなめていましたが、やがて後ずさりを始めました。
が、ざんねん。
ハチが重すぎて、唇弁が下がりすぎてしまい、ハチの背中に粘着部分が十分こすりつけられなかったために、花粉塊はくっつかずに終わってしまいました。
ちぇっ!

スズメバチは悠々と次の花へ。
せっかくなので、いくつか花を紹介しようかと思います。

唇弁が優美なフリルで縁取られるブラソカトレア系。
唇弁が細かく裂けるブラサボラ属とカトレア属の属間交配種です。
ラン科の品種改良のおもしろさは、違う属との間でも交配が出来るという所ですね。
ついでですから、花の構造をもう少し説明しましょう。
真ん中に突き出ている綺麗な模様のあるのがさっきも紹介した唇弁です。
左右斜め上にふんわりと開いているのが側花弁。この3枚がいわゆる花びらで、その外側にある細長い3枚が萼になります。細かいことを言うと、上に突き出ているのが背中萼片、斜め下に伸びている2枚が側萼片。
このカトレアの場合、蕊柱は唇弁の中に隠れています。

これは紫色のカトレア。
唇弁は、細長い筒状になっています。
原産地では、この筒の口径や長さが花粉塊を運ぶ昆虫を限定することになるんですね。

これは小輪多花性のカトレア。
同じカトレア属でもだいぶ雰囲気が違いますね。
唇弁は、短く、開き気味です。
こんなちょっとした形の違いで、花を訪れる昆虫の種類が限られてくるわけなんです。
が、現地では一体どんな昆虫が花粉塊を媒介してるんでしょうねぇ?
カトレアの品種は
こちらなんかでなかなか詳しく紹介されています。
詳しく知りたい人はどうぞ。
少し妙なデザインのランも紹介しましょう。

これは、マスデバリア属のラン。
萼片3枚が融合してこんな筒型の花になっています。
花弁は小さく退化して筒の中に隠れています。
ちょっと見ではランとは思えないデザインですよね。

これでもランです。
キルホペタルム属。
どうなってるのか、ちょっと詳しく見てみましょうか。

何でまた、こんな格好にならなくちゃいけなかったのか?
理解を超えてます。
一体、どんな必然と偶然が作用したと言うんでしょうかねぇ?
上に突きでたケバケバ付きが背中萼片、側萼片2枚の上側が融合してVネックみたいになっています。
その中から小さな唇弁が、あっかんべ〜をしていて、その左右にこれまたケバケバ付の側花弁が2枚。
よく見るとなかなか気持ち悪いデザインです。

奇抜と言えば、このパフィオペディルム属もなかなか妙なのが多いですね。
唇弁の形から、女神のスリッパとも呼ばれるらしいですが、どっちかって言うと男性用の便器にも似ているような。
側花弁はもっともっと長〜く垂れ下がる種類もあります。

これもパフィオペディルム属。
この属も側萼片2枚が融合しているのが特徴ですね。

これはパフィオペディルム属に近縁のフラグミペディウム属の種。
唇弁が内側に丸く折り返されて、真ん中の穴から入り込んだ虫は袋状の唇弁の内側を上の方に移動していき、ペタンコな形に変形している蕊柱の後ろから顔を出すことになります。
その時花粉塊を体にくっつけて外に出るという仕組み。

斑点模様がかわいいこれは、たしかカトレア属だったと思うのだけれど、レリア属だったかしら?
ラン科の植物には、こんな斑点模様のや縞模様やらまだら模様やら、ほとんど分断色と言っても良いようなデザインのまで色々です。
奇抜なデザインの花たちが、一体偶然の産物なのか、どうしても特定の昆虫のこをひくために必要で発達した物なのか、想像しだすとなかなか謎めいていて興味が尽きません。
謎を解くためには、やっぱり原産地に行ってどんな昆虫が訪れるのかを研究しなくっちゃいけないでしょうねぇ。
最後に、シンプルながらこれまた妙なデザインの花を紹介しましょう。

エピデンドルム属の種です。
エピは上。デンドルムは木、つまり木の上に生えるという意味です。
それよりも、この形。
唇弁と蕊柱が融合して突き出て何とも愛嬌のあるデザインです。
こんなのが木の枝から垂れ下がっているところって、見てみたいと思いませんか?
今回紹介したランは、それでもまだまだ普通の形、いや、わかりやすい形をしている方だと言えるかも知れません。
えぇ、それはもう、奇妙奇天烈なデザインで、何がどうなっているのか、ちょっとやそっとでは想像がつかないような連中もいるんですよね。
地球って、なかなか面白い所です。

さて、温室の外に出ると、そこは秋。
紅葉したソメイヨシノの葉の上で、赤トンボがひなたぼっこしていました。