気ままニュース166
博多で見た共存の庭
ビオトープ造りにおいて大切なことは、人間から見ていかに自然風に見えるかではなくて、実際にそこがどれくらい生物の住みかとして機能しているかと言うことだと思うのだけれど、意外にこんな重要ポイントが見過ごされていると思う。
これから紹介しようと思うのは、2003年に博多に行った時に興味を惹かれた花壇や庭たちです。
意識的にしろ、無意識的にしろ、生き物たちの拠り所が都会の真ん中に出現していました。

メヒシバやエノコログサがグラウンドカバーになって、はからずも素敵なメドウガーデンになっている。ここにある野生種が、はたして地元の物かは全く不明(鉢土や花壇の培養土とともに運ばれてきた可能性もあるから)だけれど、園芸植物と野生種が共存する庭としては。美しく成立している。
悲しかったのは、街を一巡りしたあとここに戻ってきたら、雑草が綺麗さっぱり抜き取られて、ヒョロヒョロのブルーサルビアやセンニチコウがまばらに残されているだけの、みすぼらしい花壇になっていたこと。
やっぱり意識的にやってたんではなかったんだ。そりゃまぁそうなんだろうけど、ちょっとガッカリだった。
むき出しの土は、数日晴れが続けば砂埃となって飛散する。せっかく雑草たちが、優しく地面を守っていたのにさ。
この花壇にわんさか居たコオロギやオンブバッタは、どこへ行ってしまったんだろう。

ここは有名なキャナルシティー。こんなささやかな屋上緑化でも、樹木があれば鳥はやってくる。
ビオトープ機能なんてはなから考慮してないけど、植物があれば、そこは住みかにならないまでも移動の中継地点には十分なる。
そう言う意味では、東京都が屋上緑化を義務づけたことは、羽のある生き物にとっては少なくともプラスになるだろう。

これもキャナルシティーの壁面緑化。クサツゲの植えられたコンテナの縁からオカメヅタを垂らしている。
均一の美ですね。
ポイントは、壁面自体に植物を植え付けてるんじゃないって事。
先日、この手の緑化方法に力を入れてる企業に呼ばれて、多種類の組み合わせをお薦めしてきました。
愛知万博の壁面緑化で面白かったのは、他種類を組み合わせた植栽が一番簡単に安定した緑化を実現していたって所だね。どこのメーカーも、水分条件を一定にすることに苦心を凝らし、一様な植栽の実現を目指して悪戦苦闘している中で、そのメーカーだけがあっさりと美しい壁面を造り出してました。
多種類の組み合わせにすれば、ビオトープとしての機能も高まるし、水分条件の偏りにあった植物が繁茂して、全体として安定した群落を形成する。
そう、キーワードは、もうおなじみの多種少数です。
どうしてこの国の人たちは、何でも横並び、何でも均一が好きなんでしょうかねぇ?
伸びすぎるやつの頭を押さえ、伸び悩んでる連中に足並みをそろえさせる。
はなから多様性を許容するなんて考えてないのかな?
適材適所と言う言葉を思い出して欲しいものです。
多種少数の組み合わせでも、ほんのちょっとマクロな視点で見るだけで、そこには均一が立ち現れてるって言うところには気づかないって言うか、微視的な均一が好きなのかしら?
単一の植栽は生態的バランスも崩れやすいから、勢い害虫の大発生も起こりやすい。
生態的には利用できる生物種が偏ってしまうからだよね。
多様性の貧しさが、不安定を引き起こしてるのだ。

ここも有名な、アクロス福岡のステップガーデン。
そう、回遊式庭園なんです。
入り口の案内板には「1ヶ月間無降雨であっても山水の必要はありません。」
「散水の場合は、地下に貯めた雨水を使用します。」とか、
「60年以上にわたって健康な山として育てることを目標にしています。」とか、
僕の心の琴線に触れるふれる。
ビオトープの本願は、持続だと思ってるからねぇ。
いかに永らえさせ、自然の一部に組み込まれていくか。
長期的ビジョンも持たぬ一時の気まぐれでは、何ともねぇ。

ここでも見事なほどに他種類の組み合わせが実行されている。
「大刈込は32種15の混植タイプで構成しています。」
「大刈込から突出する樹木はウメ、カエデ、エンジュなど23種、壁を覆う下垂性の植物はハイネズ、コトネアスターなど5種。階段下の寄せ植えとして常緑樹8種。季節感を増幅するハギなどの株物7種、地被3種、全体で76種を使用し、年数を追ってコンクリート面を覆うことになるでしょう。」
僕としては、地被3種ってのが寂しかったけれど、贅沢を言ってはいけません。
日本でこれだけの物が実際に作られたんですからね。

何が嬉しいかって、ちゃんとT.P.O.をわきまえた植栽だって事。
もちろんこのクラスの仕事をする人たちなら、当然のことなんですが。
レストランの上にはクリーピングローズマリーやイタビカズラが垂れ下がっている。
植物の持つ文化的背景や自生地域の雰囲気を上手に使って、建物の雰囲気を機能に応じて演出する。
もちろん、これは結果として、より多くの生物が利用できる環境を提供することにもなるのだよね。
面白いのは、ここはビオトープとして計画されたのではなく、あくまでも屋上庭園として計画されたんだという所。
他種類を組み合わせることで、同時に多様な群落(タイプの異なる組み合わせ)を組み合わせることで結果として非常にすぐれたビオトープ機能を獲得している。
それと、当然の事ながら、けして里山もどきを目指しているわけではないって事かな。
ははは。

最後はこちら。
都心に出現した雑草空間の、素晴らしい存在感を堪能していただければと思うのだ。
前に、新宿伊勢丹のダンヒルのブースをエノコログサで埋め尽くしたディスプレーを紹介したけど、ああいう野生の物が洗練された人工環境内に置かれた時のオーラの発散の仕方と言ったら、目も覚めるほどのインパクトがあるんだよね。
この一角も、もうほとんど都市芸術の詩と言っても良いくらいだと思ってるのだ。
(^_^;

まぁ、そうはいっても、フンデルトワッサーとか思い出しちゃうと、うら寂しい物はあるけれど、贅沢は言っちゃいけません。
なかなか良くできたビオトープガーデンです。
ベスト5に入れちゃっても良いかもしんない。

都心に現れた、崩れかけの土壁。
もちろん、演出ですが。
アースダイバー風に言えば、縄文的土地の記憶が噴出する、そんな一角。
メヒシバとかのたうってて、一見とんでもない草むら風ですが、実はほとんどが園芸化された植物を使ってるのだよ。
ヤバネススキ、オミナエシ、キキョウ、フジバカマ、ヤマハギ、そしてブッドレアなどなど。

ビルの谷間の切り通しの追憶。
記憶の迷路に迷い込んだかのような錯覚を憶える。

コンクリートに小石や土を混ぜておいて、生乾きのうちに洗い出しをやれば、こんな感じに出来ますよ。
ベニチガヤとグレコマのコンビネーション。
なんだか日本風だって?
もちろん、どちらの種類も日本の原産で、園芸化されたのもですから。

ブティックの前の植栽も、もう何年か経てば、ちょっとした雑木林風になる。
ホトトギスやムラサキシキブも、いいアクセント。
新宿新都心のとあるホテルにある、レストラン前の植栽を思い出しました。
あそこのはほんとに古くからある、先進的ないい仕事です。

ユウガギクやツリガネニンジンの花盛りでした。
近所にノコンギクの野生でもあれば、さらに華やかさが演出できたでしょうね。
ひょっとすると、ヒガンバナも仕込んであったかも知れません。
キツネのカミソリやショウキランもいいなぁ。
でも、近所に自生がないのなら、まぁしょうがない。

とはいえ、この地味派手?なテクスチャーをごらんあれ。
グレコマ、ヘンリーヅタ、イヌタデです。
もちろん、これはほんの一例に過ぎませんがね。
この、イムズの一角は、野放図のようで、案外きちんと管理されてました。
そのほどほどさ加減が、ここの生命観を醸し出してるんですけどね。
特に嬉しかったのは、ちゃぁ〜んと選択的除草がされてたことですね。
周辺の生態を調べて歩いたんだけど、イヌタデやエノコログサ、メヒシバぐらいしかこのあたりに生き残ってる野生種は見あたらなかった。けれど、そんな連中が入り込んでくれば、それを積極的に風景作りの素材に取り入れて、異空間の迫力を増強しています。
その辺のアホアホビオトープと比べちゃぁいけないんですが、放置され帰化植物ばかりになってる所とは明らかに意識の違いがあります。
まぁ、これぐらい出来て当たり前と言えば当たり前なのだが。>また言ってるし...。
ポイントは、群落を再構成する時、自生種が死滅してしまっている時は園芸種で代用する。
そこに入り込んできた地元の野生種は残して、繁殖力旺盛な帰化植物は排除する。
いわゆる雑草をどの程度まで取り込んで利用するかは、もちろん、庭の立地条件や住人の趣味に寄りますが。