「スパイダーマン2/サム・ライミ;2004年アメリカ映画」
映画
悩める等身大のヒーロー、というのが売りの本シリーズだが、今回はまさにそのテーマを究極に近い形で表現してくれた。さすがはサム・ライミ、これまで培ったさまざまなテクニックを惜しげもなく投入し、これ一本でおなかがいっぱい、と思えるほど頭の先から尻尾の先までライミ節がぎっしり詰まった作品になっている。
前作から二年が過ぎ、高校生から大学生になったものの、相変わらずの貧乏学生ピーター・パーカー(トビー・マグワイア)は、バイトをクビになったり落第しそうになったりとろくなことがない。それもこれも、時と場所を選ばず起こる事故や犯罪に、スパイダーマンとして対処しなければならないからだ。おかげでピザの配達には遅れ、授業にも遅刻し、想いを寄せていたMJ(キルスティン・ダンスト)にも愛想を尽かされ、別の男と婚約されてしまう。全ての私生活を犠牲にしてヒーローであり続けることに疑問を感じ始めたピーターから、スパイダーマンの能力は徐々に減退し、やがてまともに糸も出せなくなってしまう。ある日彼はとうとうスパイダーマンであることへの決別を決意し、スーツを裏通りのゴミ箱に捨ててしまう。
一方、ピーターの指導教官の友人で核物理学者のオクタヴィウス博士は、核融合の公開実験中の事故で四本腕のパワード・スーツと一体化し、意識を乗っ取られてドクター・オクトパスと化してしまう(体と融合してしまったスーツを取り除こうとした医師たちを、片っ端からほうり投げる手術室のシーンでは、チェーンソーなども登場してライミ節全開^^;)一度失敗した核融合実験を再度行うために、ドクター・オクトパスは父ノーマンの後を継いでオズコープの社長となったハリー(ジェームズ・フランコ)のもとに赴く。彼は実験のために、地球上にわずか11キログラムしか存在しない希少物質・トリチウムを必要としていたのだ。ハリーは交換条件として、父の仇として憎んでいたスパイダーマンを捉えて連れてくることを要求する。スパイダーマンの居場所なら親友のピーターが知っている、と聞いたドクター・オクトパスは、すぐさま彼の元に向った。
カフェテリアでMJと別れ話をしていたピーターは、突然ドクター・オクトパスに襲われ、MJを拉致されてしまう。ことここに至り、自らの使命を悟ったピーターにもう迷いはなかった。浮浪者に拾われ、新聞社の壁面に飾られていたスパイダーマン・スーツを瞬時に取り戻すと、ピーターはスパイダーマンの姿に戻り、ドクター・オクトパスに最後の戦いを挑むのだった。
以下ネタバレあり、まだ観てない人は読まないように
スーパーヒーローの日常を描くのも本シリーズの面白さのひとつだが、たとえばコインランドリーでスーツを洗濯したら、色落ちして下着類が赤や青に染まってしまうところが笑えた。余計な心配だが、あんな洗い方では縮んでしまって、激しい動きをしたら破れてしまいそうだ^^;
また、ピーターの唯一の肉親である伯母(ローズマリー・ハリス)とのシーンがなかなかよく、迷いっぱなしのピーターにそのつど適切な助言を与えてくれる。この伯母さん、ドクター・オクトパスにさらわれて宙づりになったり落下したりと元気いっぱいの大活躍で、ヒロインのMJをも食ってしまうほど^^;それでも、伯父ベンの死の真相をピーターから聞かされたときには、心の整理のために一晩を必要としたのた。このあたりのキャラクター描写は、さすがにサム・ライミならではである。
本編最大の見せ場はやはり、走る電車の上でのドクター・オクトパスとスパイダーマンの死闘であろう。オクトパスが電車の速度を最大に上げたままマスコンのレバーを外したために、ピーターは独力で電車を止めなければならなくなってしまう。何とか電車を止めようと、ピーターは電車の最前部、運転台の前に立ち、沿線のビルに糸をかけるのだが、糸の張力にビルの表面が負けて崩れてしまう。それでも再び糸を放ち、全力で電車を止めようとするピーター。そのおかげでようやく電車は行き足を緩め、車止めから数メートル空中に乗り出したところでようやく停る。全力を出しきり、気を失ったピーターは前のめりに落ちそうになる。それを救ったのは彼に命を助けられた乗客たちの数本の手だった。
このとき、ピーターは前方をよく見ようとしたのかマスクを外していたのだが、おかげで乗客たち全員に素顔を曝す結果になってしまう。「まだ子供じゃないか」とささやく乗客たち。ふたたび襲ってきたドクター・オクトパスから彼らは身を挺してピーターを守ろうとする。結果としてはあっさり押しのけられてしまうのだが、このあたりの演出も「アメリカ人にとってのヒーロー」とは何かを的確に示しているように思う。ピーターがマスクを外す動機がもうひとつよく判らなかったので、ちょっと無理な感じがしたのだが、ここで破ったりしたら後の展開(ものすごく重要^^;)に差し障るので、やむを得なかったのだろう。
このあと、力尽きたスパイダーマンをとらえてハリーの元に送り届けたドクター・オクトパスは、トリチウムをせしめて実験を再開するのだが、その後のお話は観てからのお楽しみとしておこう。例によってスパイダーマンがビルの谷間を飛び回ったり、格闘したりするシーンはCG臭丸出しの映像で、もうひとつリアリティに欠けていたが、敵役のドクター・オクトパスの方はなかなかうまく描けていて、CGと実写との境目はほとんど気にならなかった。むしろこっちの方に特殊効果のダイクストラは力を入れていたのではなかろうか。・・・
★★★★

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