タイトルに偽りあり、とまでは言わないが、確かに豚は大量に出てくるものの、軍艦は冒頭のショットに遠景でチラッと見えるだけである。もちろん軍艦が基地の町の象徴であることは言うまでもないが、それにしても出なさ過ぎ^^;
戦後、進駐軍がまだ幅を利かせていたころの基地の町(もちろん横須賀)を舞台に、やくざが養豚業を営むというちょっと変わった設定の話。豚の飼育係をさせられていた主人公の欣太(長門裕之)は、やくざ同士の出入りから殺してしまった死体の処理を任せられ、一度は簀巻きにして海に捨てるものの、浜辺に打ち上げられて警官に見つかりそうになり、慌てて豚舎の床下に隠す。しかし、こんなところにいつまでも隠しおおせるものでもない。そこで仲間の大八(加藤武)は名案を思いつく…。
こう書くとなんだか重くシリアスな話みたいだが、確かにある種の重苦しさはあるものの、基本的には喜劇である(監督の今村はこのスタイルを「重喜劇」と呼んでいたそうだ)やくざ者同士の人間関係、特に、かっこいい二枚目なのに癌ノイローゼの鉄次(若き日の丹波哲郎)の描き方など喜劇そのもの。
終盤、いろんな意味で追い詰められた欣太がやけになり、盛り場の路上で仁王立ちになって機関銃をぷっ放すシーンがクライマックス。銃声に驚いた豚がトラックの荷台から一斉に逃げ出し、町を埋め尽くしてしまう。残念ながら欣太の撃っていた機関銃はいかにも当時の撮影用小道具という雰囲気で、実銃っぽい迫力は皆無、それに加えて逃げ出した豚も小さめで可愛さが先に立ってしまい、監督が意図したような凄みは画面から伝わらなかった。せめて豚が突進してきたら恐怖を感じるほどの大きさだったら、受ける印象もだいぶ違ったと思うのだが。
欣太の恋人で、進駐軍のオンリーさん(愛人)になれと親から命じられていた春子(吉村実子)が、自らの選んだ生き方に従って旅立つところで物語は終わる。彼女が背負ったものや失ったものの重さを考えると、単に爽やかでは済まされない気もするのだが、それも含めての「決別」なのだろうな、と思わせるラストだった。・・・
★★★

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