「栄光への5,000キロ 特別編/蔵原惟繕;1969年劇場公開作品」
映画
レースものの映画には、大きく分けて二つの行き方があると思う。ひとつは、レースそのものの駆け引きに焦点を絞り、あくまでもレースの面白さを追求するもの。代表作としてはスティーブ・マックイーン主演の「
栄光のル・マン」が挙げられる。そしてもうひとつは、レースとそれを取り囲む人間模様の綾を描く、群像劇的な作品。こちらの代表作は言うまでもなく「
グラン・プリ」である。
本編、「栄光への5,000キロ」は両者の間に作られた(「グラン・プリ」が1966年、「栄光のル・マン」が1971年製作)作品であるが、面白いことに作品の傾向も両者の中間を行くような形になっている。主人公のレーサー五代(石原裕次郎)はほとんど人間臭さのない、ちょうどマックイーンの演じたマイケルのようなキャラクターだが、内縁関係にある優子(浅丘ルリ子)や、友人であるドライバー、ピエールの妻アンナなど、まわりの人間模様の描き方は「グラン・プリ」を思わせる。特に、ジプシーのように一箇所に定まらない生活や、常に夫の身を案じる不安な日常に耐え切れなくなる描写など、「グラン・プリ」を髣髴させるシーンが多い。
レースシーンの描き方はかなりリアルで、実際のラリーシーンの映像も数多く挿入されており、日本製のレース映画としては空前絶後である。世界的に見ても、ここまでのスケールで自動車レースの世界を描ききった作品は稀で、前述の二本に匹敵する大作と評価していいと思う。特に後半、五代の駆るブルーバード510と、ピエールのUAC(実際にはフォード)エスコートとの長い一騎打ちは、レース映画史上に残る名シーンと言っていいだろう。
実は本編は海外向けの短縮版で(といっても上映時間は2時間20分もあり、邦画としてはかなり長いほうの部類だ)劇場公開版より30分以上も短い。上映に3時間もかかる映画というのは人間の生理機能上からも限界に近く、実際以上にだれた印象が残ってしまうものだが、本編のノーカット版がはたしてどうだったのか、ちょっと気になるところだ。
来年にはDVD、ブルーレイ化が控えているらしいが、その時にはぜひフィルムの傷やレンズに付いたゴミなど、きれいにデジタル修復してもらいたいものである。・・・
★★★★

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