「相棒 -劇場版II- 警視庁占拠! 特命係の一番長い夜/和泉聖治;2010年劇場公開作品」
映画
シリーズ開始後10年を迎えるTVドラマ「相棒」二本目となる映画化作品。大風呂敷を広げたわりに竜頭蛇尾に終った感のある
前作に比べれば、だいぶ「映画」としてこなれた作品になってきてはいると思うが、キャッチコピー「あなたの正義を問う」の中身がこれとは、やはり竜頭蛇尾はシリーズの伝統なのだろうか。
話は警視庁内部で起こった人質篭城事件から始まる。事件そのものは序盤のうちに犯人死亡という形の解決を見るのだが、一連の動きに不可解なものを感じた特命係の杉下右京(水谷豊)と神戸尊(及川光博)が事件の真相を暴いていく、といういわば定番スタイル。
謎が謎を呼ぶ前半の展開はなかなかよくできていると思うのだが、劇場用映画としてはやや展開が地味。権力構造の描写(警視庁VS警察庁)もスケールの大きさを感じさせないし、なにより追い詰められていく敵側に動きがまったくないのも奇妙だ。自らの側に正義があると信じているのなら、もっと大胆な妨害工作を行っても不思議はないと思うのだが。
以下ネタバレあり、まだ観てない人は読まないように
もっとも腰砕けだったのは、犯人たちの動機である。この手の「実は身内に敵がいた」パターンはアメリカ映画などによくあるものだが、あれは一種の「お約束」であり、仮にも「社会派」を自認しようというのなら(していないのならあのキャッチコピーはなんなのだ?)こんな定番パターンは使うべきではない。おかげで薄っぺらながらなんとか掲げ続けていた「社会派」の看板が、あっけなくひっぺがされてしまった。少なくとも、観客の中で犯人たちの主張の中に「正義」を見た人は、ごくわずかであろう。
戦争に「捨て駒」は付き物であり、勝利のためにある程度の犠牲を払うのはやむをえないことである。しかし、作戦全体がいかに正当であり、勝利のためには他に選択肢がなかったとしても、捨て駒にされた兵士にとって指揮官は怨嗟の対象になろう。こういうシチュエーションで初めて「正義を問う」などというキャッチコピーは生きるのであって、今回の犯人たちの言い分にはそんな正当性など露ほどにも感じられなかった。
ラスト近く、シリーズの主要な登場人物の一人があっけなく殺害されるのだが、そのとってつけたような展開といい、彼が命を失う遠因となる犯人たちの「正義」の説得力のなさといい、底の浅さを痛感せざるを得ないシナリオであったとしか言いようがない。いかにドラマとして面白く描けていようと、その土台となる設定が液状化しているようでは、映画そのものも瓦解せざるを得ないのである。・・・
★★★

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