今から30年も前に、「四騎の会」(黒澤明、木下恵介、市川崑、小林正樹)によって書かれた脚本の映画化作品。それぞれのキャラクターを一種の典型として描き分ける手法には、黒澤作品との共通点も感じられるが(特に望月小平太=どら平太=役所広司の腕っ節が強いうえに権謀術策に長けた性格など)それにしては話がやや平板だし、「勧善懲悪」ものとしてのエネルギーも希薄だ。なにしろ、話に登場する悪玉の誰一人として「成敗」されぬまま映画は終わってしまうのだから。
構図のとり方やタイトルバックのスタイリッシュさは、さすがに市川崑らしいセンスを感じるが、どういうわけか今回は市川らしい「切れ味」の不足した演出で、たとえば剣戟シーンのメリハリはどう見ても欠如しているし(敵の本拠地で数十人にもおよぶ刺客に囲まれながら、小平太がその全員を峰打ちで叩きのめす肝心なシーンも、ときどきストロボモーションを用いる程度の工夫しかなく、構図も平板で見応えがなかった)終盤で見せる小平太の町奉行としての「お裁き」も、見事な手際というよりは、推理小説のラストでよく見るような、大慌ての辻褄合わせとしか見えなかった。
江戸からはるばる小平太を追いかけてきた女(浅野ゆう子)の設定も、どうにも不自然で無理矢理作ったキャラにしか見えなかったし、身近にいて小平太を裏切っているらしい人物も、最初から目星が付いてしまって意外性のカケラもなかった。
全体に、○○記念作品などと銘打たれた作品によく見るような、お金はかかっているけど、どこか大味な大作という評価が妥当な作品といえるだろう。・・・
★★★

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