「チェイス〜国税査察官〜/大橋守・他;2010年テレビドラマ作品」
テレビ番組
この種の経済ネタドラマは、さまざまなスポンサーシップのしがらみが存在する民放ではほぼ不可能なので、必然的にNHKの独壇場となる。とはいえ、NHK独特の価値基準みたいなものが、多かれ少なかれストーリィに影響を与えていることは否めない。
たとえば、同様のジャンルの作品であった「ハゲタカ」においては、某総合家電メーカーの子会社が持つ光学技術がアメリカの軍需産業に目を付けられ、買収されそうになったのを救う、というシナリオがあったと思えば、最終回ではその家電メーカーそのものが、中国のベンチャー企業の資本参加で救われる、という展開になる。普通に考えれば、そんな軍事転用可能な技術を持った企業がよりによって中国の資本参加を許したら、かなりやばい結果になりそうなことは簡単に予測できそうなものだが^^;
本編においてもそうした「ちょっとズレた」感覚は健在である。タイトルからは伊丹十三監督の「マルサの女」を思い浮かべるが、そうした雰囲気は第一回の冒頭部分だけで、あとはもっぱら脱税コンサルタント^^; 村雲修次(ARATA)と国税査察官、春馬草輔(江口洋介)との私闘といった側面が強調される。ここにおいて村雲が見せるさまざまな脱税テクニックはなかなか興味深いものの、やや現実離れが激しくリアリティに欠けており、シナリオはむしろそうしたテクニックよりも、なぜ村雲がそうした行動をとるようになったかを執拗に描いている。まず人間を描かなければならないドラマの作法としては、そっち方面に重点を置くのもある程度仕方がないと思うが、おかげで全体に作り物っぽい雰囲気が横溢した話になってしまった。
まあ、あまりにリアルな話にしてしまうと、これを参考に実際に脱税に走ったりするバカが出てこないとも限らないので、この程度に抑えざるを得なかったのかもしれないが^^;
主演の江口洋介はいつもどおりの雰囲気で、主役オーラは発揮しているもののワンパターンの演技。一方のARATAはテレビではほとんどNHKのドラマにしか出演しない俳優だが、本編の魅力は彼一人の力で持っている、といっていいほど素晴らしい。特に前半、一体何を考えているのかわからない村雲という謎めいた人物を、強烈な説得力で演じて見せた。どちらかといえば昭和の雰囲気が似合う顔立ちなので、彼を主演に立てた満州あたりを舞台にしたスパイ活劇をぜひとも観てみたいものだ。
残念ながらグズグズの脚本によって、終盤村雲のメッキは脆くも剥げてしまうのだが、話の陳腐さにもめげず村雲という特異な人物を演じきったARATAの実力は、いくら評価してもし足りないくらいだと思う。・・・
★★★

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