「暗黒神話/安濃高志;1990年オリジナルビデオアニメ作品」
アニメーション
レーザーディスクの開発元であったパイオニアがハード生産を終了し、補修部品保存期間が終わる数年後には、修理にも対応できなくなるとのことなので、いまだにDVDソフトの出ていないビデオ作品などをいまのうちにダビングすることにした。
その一発目に選んだのは、17年前にOVAとして発表された「暗黒神話」(アニメ専門の映画館では上映もされた)特異な作風でファンの多い漫画家、諸星大二郎氏の処女長編をアニメ化した作品である。前編「餓鬼の章」と、後編「天の章」の二部構成で、前後編合せるとほぼ100分という、劇場公開作品並みのボリュームを持つ大作である。
物語は、古代史好きの少年、大和 武がみずからの出自に関わる陰謀に巻き込まれ、やがて宇宙的スケールの事件にかかわることになる(「暗黒神スサノオ」の設定など、今観てもそのスケールの大きさに驚かされる)という、典型的な伝奇推理ものだが、まさに諸星作品の面白さを凝縮したマスターピースともいうべき傑作を、余すことなくフィルムに写しとることに成功した希有な作品というべきだろう。
まず特筆すべきなのは、とにかく原作に気を使っていることだ。全体の構成のみならず、シーンごとの構図に至るまで、できるかぎり原作に忠実に演出している。もっとも、原作がコミックス単行本一冊分に凝縮された内容のため、特にキャラクターの背後関係などやや説明不足の感があり、そのあたりはさすがに最低限の脚色をしているものの、作品の雰囲気を壊すようなものにはなっていない。
基本的に、読み手がみずからテンポを作り出しながら読むマンガ作品と違い、アニメの場合には作品のリズムそのものを観客に提供しなければならないのだが、そのあたりの緩急の付け方にも抜かりなく、諸星作品独特の「重さ」をうまく表現していたように思う。また、アニメ最大のアドバンテージ、「絵が動く」という点についても、低予算のOVA作品としてはかなり頑張っており、キャラクターはいうに及ばず、「荒ぶる神」のグロテスクな蠢きや、物語中盤から主要な存在となる餓鬼の、いかにもこの世のものではない異様なまでの強さ(人体をあっという間に引き裂いてしまう)の描写など、同種の作品と比べても優れていたといえるだろう。ただ、車などメカ類までも作者の絵柄を踏襲してしまったために、時々とてもプロの絵とは思えない乗用車が画面を横切ることだけがちょっと心残りだった^^;
いずれにしろ、このような傑作がほぼ入手不能になっている現状は、残念というしかない。・・・
★★★★

6