先日発売された「週刊東洋経済」(2009年7月4日号)という経済誌に、とても興味深い記事が掲載されていました。
同誌では「鉄道進化論」という特集記事が組まれていたのですが、その特集記事の中に、開業してから約3ヵ月半が経つ
阪神なんば線と開業してから約9ヵ月が経つ
中之島線の現況に関する記事が、『新線ラッシュの関西鉄道 運用状況は明暗くっきり』という大見出しと『近鉄は想定よりも2倍増 京阪は予想外の大苦戦』という小見出しが付けられて掲載されていたのです。
以下にその記事を転載させて頂きます。
『
不況の暗い影を落とす関西だが、それと相反するかのように鉄道の新線開業が相次いでいる。
昨年3月に西日本旅客鉄道(JR西日本)の「おおさか東線」が、続く10月には、オフィス街の中之島地区を東西に横切る京阪電気鉄道の「中之島線」が開通した。さらに今年3月には、神戸と奈良を直通する「阪神なんば線」が登場。それぞれの開業前後には、連日のようにテレビや雑誌などで関連特集が報道された。「新しいもの好き」と言われる関西人だけに、新線に対する注目の高さがうかがえる。
新線には、鉄道会社の思惑が乗せられている。少子高齢化による沿線人口減少の影響で、関西の鉄道輸送客数は下降線を描く。特に、定期客が1991年度をピークに漸減傾向。そのため、鉄道会社は新線をテコにして、観光客を呼び込む狙いである。
その狙いが的中しているのが、阪神電気鉄道の運営する阪神なんば線だ。「総じて順調に推移していますね」と、阪神・都市交通事業本部の久保田晃司部長は破顔一笑する。これまでの利用客数は1日平均54,000人と、当初想定の67,000人に届いていない。だが、新線の運輸収入は見込みよりも12%上回った(3月と4月の前年同月比)。これは長距離を利用する顧客、つまり観光客が想定よりも多かったことを意味する。
阪神なんば線は、既存の尼崎−西九条駅ルートを大阪難波駅(近鉄難波駅から改称)まで延伸したもの。同時に近畿日本鉄道との相互直通運転を開始したことで、三宮(神戸)−近鉄奈良駅が直接つながることになった。
神戸と奈良はこれまで、同じ関西圏にありながら「心理的に距離がある」とされてきた。両地域ともに観光資源を有しながら、直通する鉄道がなかったために相互の行き来が不便極まりなかった。阪神なんば線はそれを補った形となり、実際に開通後は三宮と奈良を往来する顧客が増えているようだ。
新線が順調である背景には、人気施設の“呼び水”効果もある。阪神は「甲子園球場」の大規模なリニューアル工事をほぼ終えており、その近隣にある職業体験型テーマパーク「キッザニア甲子園」も3月にオープンした。これらの施設を目当てに、広域の顧客が新線を利用している。そもそも沿線開発が進む阪神は、関西私鉄の中で唯一、輸送客数を伸ばしている。「阪神なんば線は今後、(大学などとの連携を強化することで)通学や通勤の定期客も増やしていきたい」と、久保田部長は語る。
阪神なんば線の開通は、直通運転を始めた近鉄にも追い風となっている。4月の降車客数(定期外)は奈良駅で1割増、同じく大阪難波駅も2割増(ともに前年同月比)。「阪神圏からの顧客が増えているようです」と、近鉄・鉄道事業本部の槇山雅史部長は説明する。同社は当初、2009年度に5億5000万円の新線による増収効果を見込んでいたが、現在の見通しは「その倍近くに到達する勢い」(槇山部長)。地元ホテルが兵庫県民を対象に超特価宿泊プランを用意するなど、地域挙げての観光客誘致活動が奏功したと見てよい。
近鉄は新線開通と同時に、高級感を全面に押し出した新型特急「22600系ACE」を投入した。大型喫煙ブースを設けて、煙が客室内に流れ込まないように徹底。また、トイレには床に大理石を敷き、温水洗浄便座も設置した。車両投入と並行して、大和西大寺駅など主要駅の改装工事にも着手。折しも、奈良県では「平城遷都1300年祭」の開催を来年1月に控えている。多分に漏れず近鉄も定期客が減少しており、今後観光客を増やさなければならない。09年度後半にかけて、一気に巻き返す戦略だ。
一方で、想定外の苦戦を強いられているのが京阪の中之島線。輸送客数は当初の1日平均8万人見込みに対し、これまでの実績は同約3万人と低空飛行にあえいでいる。
中之島線は既存の天満橋駅から新設の中之島駅まで延伸した線で、開通により中之島から京都までが一本の線でつながることになった。新駅には無垢の木やガラスが主な素材として使用され、「和」の演出が施されている。京阪はこれらの魅力についてのPRに力を注いできたが、「(顧客に)周知が届いていなかった」と、京阪・鉄道企画部の倉堀耕一部長はうなだれる。昨今の不況の影響で、中之島の開発が遅れぎみであることも足かせとなった。
ただ、6月15日に朗報が届いた。開通に伴って投入した新型車両「3000系」が「ローレル賞」に選ばれたのだ。鉄道ファンの全国組織「鉄道友の会」が、性能やデザインなどで優れた車両に贈る賞である。
3000系は月をイメージした円弧のデザインや、車内になめし革調のシートを1列+2列で配列するなどの独自性が評価された。実は、同社はデザイン開発に当たり、初めて外部デザイン会社を採用したという。同時に、女性顧客の意見を取り入れる協業方マーケティングを展開。それらが今回の受賞で花開いた。』
‥‥という記事でした。一言で言うと、阪神なんば線は予想を上回る快調ぶりだが中之島線は利用が低迷しており、2つの新線はそれぞれ明暗を分けている、ということです。
上の写真は、阪神が、阪神なんば線開業と同時に近鉄線に乗り入れるための車両として平成18年に新造した
1000系です(
昨年5月30日の記事からの再録写真です)。
この阪神1000系は、阪神電車の中では間違いなく、最も阪神なんば線を象徴する電車といえます。
そして上の写真は、上記の週刊東洋経済の記事中で紹介されていた、
先月ローレル賞を受賞したばかりの京阪3000系です(中之島駅にて撮影)。中之島線の開業に合わせて営業運転を開始した、最も中之島線を象徴する電車といえます。
初めてこの3000系を見た時は「あまり京阪らしくないな‥‥」と違和感を感じましたが、今では、私にとっても大好きな電車です(笑)。
ところで、前出の東洋経済の記事によると、中之島線の利用状況は残念ながらかなり厳しい状況にあるようですが、この点については、私も少し不安に感じてはいたところでした。
というのも、私は
今年の3月、初めて中之島駅から中之島線の電車(3000系)に乗ったのですが、その時、まだ午前6時台の早い時間帯とはいえ車内には乗客が私一人しかおらず、「オイオイ大丈夫なのか!?」と思ったからです‥‥。
ただ、中之島線は、もともと独立した一路線というよりは京阪本線の一部というべき性格の路線なので、阪神なんば線のように、開通により2県の県庁所在都市が一本に結ばれ乗客の流動に劇的な変化が見られるであろうことが予想されていたような路線では最初からありませんでした。
そもそもなぜ中之島線が建設されたのか(なぜ大阪の中心地である
梅田や難波へ延伸せず、天満橋から中之島へと路線を延ばしたのか)というと、鉄道空白地帯であった中之島地区の活性化と再開発を促すため、‥‥というのは実は副次的な理由で、最も大きな建設理由としては、「過密ダイヤとなっている京阪本線ではこれ以上列車の運行本数を増やすことが困難なため、新線を建設することにより過密ダイヤを解消して、列車の運行本数を増加させる目的があった」という点をまず第一に挙げる事ができます。
どういうことかというと、京阪本線は天満橋〜萱島間は複々線(上下2線ずつの4線区間)なのですが、天満橋〜淀屋橋間は複線(上下1線ずつの2線区間)であり、この複線区間が、複々線をフルに活用して列車を運行したい京阪にとって、これ以上列車を増発できない大きなボトルネックになっていました。
しかし、ビルの林立する道路の下に造られた限られた地下空間を走る天満橋〜淀屋橋間を今更複々線化することはできず、そのため、天満橋〜淀屋橋間と並走する新線を複線で建設する事により、天満橋から西の区間を、従来の天満橋〜淀屋橋間と合わせて事実上の複々線として運用しようとしたのです。
ですから中之島線は、「中之島線」という、本線とは独立した名こそ与えられているものの、実質的には京阪本線を複々線化した路線の一部、という位置付けに近いといえます。そもそも独立した路線と考えるには、京阪本線と中之島線は位置が余りにも近過ぎます(両線は徒歩連絡できる距離を並行しています)。
ですから私としては(これは完全に個人的な主観ですが)、中之島線を、兵庫県と奈良県を連絡する関西の大動脈としての役割を期待されて建設された阪神なんば線と比較するのはちょっと酷なのでは、という気もします。
とはいえ、中之島線の建設理由は「天満橋〜淀屋橋間の事実上の複々線化を図るため」だけでは勿論ありません。
もう一つの大きな建設理由は、京阪は、将来的には更に
西へ路線を延伸する計画を持っており、そのための布石を打つ、という狙いもあったと推測されています。
京阪では路線を西九条まで延伸させる計画があり、しかも、その路線が完成した後は西九条から更に新桜島まで路線を延伸させる計画もあるのですが、現実には、既存の大阪方ターミナルである淀屋橋から路線を延伸させることは、淀屋橋駅の構造上不可能でした。
どういうことかというと、淀屋橋駅は地下鉄御堂筋線との乗り換え駅でもありますが、その御堂筋線と京阪本線は同一レベルの地下階層でT字型(正確にはTを左に90°回転させた形)に接続しているため、西へ延びようとする京阪本線は南北を直線に貫く御堂筋線に遮られる恰好になっており、まさか地下で平面交差するわけにもいかないですから、京阪本線はどうしても淀屋橋から路線を西に延伸させることができない構造になっていたのです。
この不都合を解消するために、将来的に西方向への延伸が可能な新しいターミナルを造る必要があり、そういった事情も、中之島線建設の大きな理由の一つであったろうと思います。
中之島線が西九条まで延びるのはまだかなり先のことになるのでしょうが、もし中之島から西九条まで路線が延伸されると、西九条駅で阪神電車と乗り換えることにより、
姫路・明石・三宮方面と、三条・出町柳方面が連絡されることになるので、京阪の利便性はかなり向上します。
実質的には京阪本線の一部に甘んじている中之島線が、独立した路線としての真価を発揮するのは、その時(中之島から西に延伸した時)かもしれませんね。
一京阪ファンの、かなり楽観的で偏った意見かもしれませんが(笑)。

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