■産経「正論」に掲載された論考について
『雪斎の随想録』より 産経「正論」欄原稿/皇位継承論へのトラックバック。
女系天皇を認める意見をみると、天皇が「天皇たる理由」とは何か? とか、そもそも「天皇とは何なのか?」と言う基本的なことすら理解していないように思えます。むしろ基本的な部分を理解していないので、女系容認という非常にトンデモな結論に至るのではないかとも思います。その誤解を解くことができれば「女系容認」の論者も、男系維持派に変わる可能性が高いと筆者は考えます。
雪斎こと櫻田氏に個人的な恨みがあるわけではありませんが、一応「言論人」でありそれなりの影響力はある方らしいので、櫻田氏としては不本意なことかも知れませんが「女系容認意見のひとつ」とみなして、非常に簡単ではありますが「なぜ天皇は男系でなければダメなのか」について説明してみる次第であります。
■天皇は何を象徴しているのか?
日本国憲法第一条において
「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く」とされている。
天皇が
「何を象徴しているのか?」というイメージについて曖昧な表現となっている。
歴史的にみれば、天皇は
「日本国における"正統権力"の象徴」であった。天皇が政治の実権を握っていた時代が存在したことは説明の必要もないだろう。
武家政権の誕生以降は、実権は武家(幕府など)が担うこととなったが、形式的には「天皇が政権を任命する」という構造であり、形式的権力はやはり天皇にあったのである。
この形式的権力がいわゆる
「錦の御旗」である。ときの政権の正当性を保障するのが天皇という
形式的権力の重要な役目だった。
ちなみに現在の日本国でも、国会の指名に基づいて内閣総理大臣を任命するのは天皇である。つまり
日本国の正統政権は常に「天皇と共に存在した」こととなるのである。
■天皇が世襲の理由
天皇が「正統権力の象徴」であること、あるいは「正統権力を保障する存在」であることを考えれば、なぜ日本国憲法第二条で
「天皇の世襲制」が定められているのかも理解できるであろうと思う。
これはそんなに難しい話ではなく、天皇が天皇たるゆえんは
「日本という国家を束ねた偉大な一族の末裔である」という点に集約されるのである。偉大な一族に連なるものであるからこそ形式的権力者として、今も、
世界中で畏敬の念を持って扱われているのである。
分かりやすく言えば我が日本国における
「歴史的経緯と伝統」こそが、天皇という特殊な存在を支えているのである。
歴史と伝統を考えれば、日本国民の中から抽選で天皇を選ぶとか、投票で天皇を選ぶという選択肢は全く考えられないだろう。仮にそういうシステムを導入したとしても抽選天皇や投票天皇といったものが「畏敬の念」をもって扱われることはないであろう。
なぜならばそこには歴史も伝統も存在しないからである。
■天皇の要件
天皇の系譜に連なるものは歴史上数多く存在した。どういう立場であれば「天皇」となる資格を得られるのか? については歴史を見れば容易にわかることである。
2600年以上にわたり「父親が皇統に属する者(男系)」だけが皇位を継承してきた(万家一系)とされている。不文律あるいは
不文法(慣習法)という概念で考えれば、「天皇の要件」の一つとして「男系であること」が確立していることは明らかである。
つまり、女系天皇(父親が皇統に属さない者)は、歴史的にみればそもそも「天皇」の概念にはあてはまらないのであって、形式的権力を継承する資格がないだけではなく、国家や国民の象徴ともなりえない。いわば「似て非なる者」あるいは「天皇の偽者」にすぎないのである。
客観的にみても
女系天皇の即位は「王朝の交代」となるので、女系天皇の即位は「世界最古の王朝」を消滅させることとなる。今の時代に「あえて王朝を断絶させる」というメリットを筆者は思い浮かばない。現在で男系での継承は十分に可能なのである。
要するに「女系天皇を認める」ということは、二千年以上続いたこれまでの「天皇」というシステムをやめて、新しい「天皇制(皇室制度)」あるいは「新しい王朝」を創作するという議論なのである。
これを「ロボット工学」や「自動車製造販売業」など専門外の方々が集まって、内々で議論して解決できるような問題でないことは確かと言える。
■女系天皇の問題点
女系天皇の問題点は、具体例を考えれば容易にわかる。
具体的なイメージとして、紀宮さまと黒田さんの例を考えてみたいと思う。現在の皇室典範では、結婚することによって女性皇族は皇席を離脱することとなっている。実際に紀宮さまは、黒田清子という民間人として今後は生活することになるのである。
しかし、自称有識者の会議による
改正案が実現すれば、紀宮さまは結婚後も皇族に留まり、例えば(あくまでも仮定の例となるが)黒田さんが皇室に入ることとなるらしい。そして、紀宮さまと黒田さん(公務員)の子供も皇位継承権を持つことになるわけだ。
二人の子供が皇位を継承すれば
「公務員の息子(娘)」が天皇となることになる。黒田さんの職場にも黒田さんの「上司」がいるはずなので、「天皇の父親の上司」が複数存在することとなるだろう。父親の上司に対して、日本国の象徴はどのような応対をするのだろうか。「父がお世話になっています」などと「天皇陛下」が挨拶をするのであろうか。
即ち
「上司>天皇の父親>天皇」という構図になるわけであるが、「国の象徴」よりも立場が上の人物が存在するということは「天皇の概念」からは外れることなのである(この辺りに2600年間男系で継承された理由があるものと推測される)。
また、黒田さんの娘(公務員の娘)が即位したとしよう。
その「公務員を父にもつ女系女性天皇」が、仮にトヨタ自動車の会長の息子と結婚すると仮定する。次世代でその子供が即位したとしよう。
すると「車屋の父」と「公務員の娘」から生まれた人間が「天皇」として国の象徴となるわけである。そんな存在を国民が有難がるわけはないと思うが、これが
「女系天皇の現実」なのである。
果たして
「公務員の娘」と「車屋の息子」の間に生まれた子供が日本国の「形式的権力」を担うに相応しいと言えるのだろうか?
歴史も伝統も無い民間人の息子が「日本国の象徴」となりえるのだろうか?
このように考えた場合に「受け入れがたい」と思うからこそ女系容認論に対して
「熱い反対意見」がぶつけられるのである。
■ちなみに…
現行憲法では皇室のあり方を「皇族」が決めることはできません。なにせ「主権在民」ですから、憲法を制定しあるいは皇室制度を変更(皇室典範を改正)する権限は日本国民にしかありません。皇族の方は「皇族」ですから、狭い意味でいうと「日本国民」ではありません。「皇族」としての特権もありますが、職業選択の自由や選挙権などの人権が制限されています。
櫻田さんの時代はどうか知りませんが、今では中学校で習うことだと思いますので、「馬の骨が皇室のあり方について議論するのは不思議だ」というような論説はちょっと乱暴だと思います。
櫻田さんのおっしゃる「どこぞの馬の骨(一般国民)」が望めば、皇室制度(天皇制)を終了させることも可能なんです。だからこそ「天皇」を守るために「馬の骨」に属する者による言論活動が必要とも言えるわけです。
男系継承を守るということは、一つには「日本の歴史の連続性」を守るということでもあるんです。
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