2007/12/25
名盤「危機」 音楽
27年前に購入。言わずと知れた名盤「危機」です。
これ一枚でイエスは伝説となりました。
こての通り再プレスのキャンペーン版で、リアルタイムではないですが。
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これ一枚でイエスは伝説となりました。
こての通り再プレスのキャンペーン版で、リアルタイムではないですが。


2007/12/20
六割食
「腹八分目に病無し」という諺がありますが、
確実に長生きできる秘訣は、通常の六割食だそうです。
なんでも、小食による適度のストレスが、長寿遺伝子に
スイッチを入れるからとか。
(日刊ゲンダイ 12/20 15Pのコラムより)
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確実に長生きできる秘訣は、通常の六割食だそうです。
なんでも、小食による適度のストレスが、長寿遺伝子に
スイッチを入れるからとか。
(日刊ゲンダイ 12/20 15Pのコラムより)

2007/12/17
〜愛しています〜 金色のバッケンレコード 童話
おぼろげな冬の月が、森の中にそびえ建つジャンプ台を、ぼんやりとうかびあがらせました。そんなジャンプ台のすぐ近くに集った風の精たちが、何やら話しあいをしています。
「やっぱり、アイスフロクの練習量が一番のようね」
「そうね。彼に決まりね」
明日この台で、世界中の選手が参加する大きなジャンプ大会が開かれます。そのため、風の精は、気をつかわねばならないのです。というのも、ジャンプ競技は一種のギャンブルといえるほど風が勝負を作用します。向い風があれば遠くへ飛びやすく、追風だと失速しやすくなります。
誰に向い風を強くふきつけるべきか。
風の精たちは、特別な理由がないかぎり、一番努力をした選手へふきつけようときめていました。
「それではアイスフロクに決定します」
そう言って、議長は会議をまとめました。はりつめた空気がゆるんで、風の精たちは帰りかけます。
「まあ、アイスフロクは妥当な線ね」
「そうね。努力を重ねて、あの年であそこまで復活してきたのですもの」
「カサダもよかったけど、もう一歩アイスフロクには届かないようね」
(カサダさん……)
カサダという名前が聞こえてきて、そばにいたさやかはぴくりとしました。黒い髪と茶色い瞳をしたさやかは、カサダが好きでした。気をうしなうほど想っていました。
(なぜ言えなかったのかしら。ほんとうはカサダさんこそ、向い風を送るにふさわしい選手なのに……)
もちろん、好きという身びいきだけが理由ではありません。誰もが納得できるわけがありました。けれども、ああ、どうして応援できるでしょうか。カサダが勝つと、うれしいのにつらいことがおこるのです。
(とにかく会議で決ったのだから、アイスフロクさんへ吹かなければならない。もし、きまりをやぶったりしたらわたしは風の精でいられなくなる)
さやかのけだるいため息が、夜空のかなたへ流れてゆきました。
*
夜が明けました。まだ試合前だと言うのに、スタンドはもう、色とりどりの防寒着をまとった観客でいっぱいです。記者席には世界中の新聞記者が、せわしなく行き交っています。控室では真剣な顔つきのコーチが、身振り手振りで選手へ指示していました。
風の精たちも緊張しながらうちあわせです。
「いい。わたしたちの出番は勝負が決まる二本目よ。アイスフロクがおりてきたらみんないっせいにふきつけるのよ」
ブルーの瞳をした議長が、たしかめるように声をかけました。けれども、さやかの心はまだゆれています。
(ほんとにこれでいいのかしら)
試技で飛んだカサダを見たとき、さやかは思い出しまったのです。
それは、カサダがこちらへやってくる半月ほど前のことでした。なぜなのか、いつもより早く練習を切り上げて行くカサダを見て、さやかは思わず後をおったのです。
(カサダさん! だめよ、まだまだ練習しなくちゃ。わたしあなたを応援できなくなる)
もちろん、さやかの声は届きません。練習を早引きしてまでカサダが向かった場所は、病院の一室でした。窓越しにカーテンのすきまからのぞいてみると、おさげ髪の女の子が寝ていました。
『ゆきこ。おれがんばるから。できれば…いや、きっと金メダルを取って、ゆきこにプレゼントする。だから負けるなよ』
ジャンプのときと同じくらいの表情で、語りかけていました。
(カサダさん!)
すぐにその場からさやかは逃げました。
『金メダルなんか取れなければいいのよ!』
どんなにこらえても、おしころしても、やな叫びは次々とわき出てくるのでした。
(会議のときに、このことを言うべきだった。でもどうしても言えなかった)
思いつめていくうちに、競技がはじまりました。曇空のなか、次々と選手がとびおります。そうして四〇分ぐらいすぎたころでしょうか。黄色と赤のジャンプスーツを着たカサダがあらわれました。
(カサダさん!)
さけび声をのみこむと、さやかはカサダが滑りおりてくる姿をみつめました。
とびだします!
深い前傾をかけます。
スキーがV字に開きます。
見つめるごとに、さやかのからだがほんのりとしてきました。心がいつもと違うリズムをうって、ひきこまれそうになりました。
たちきるように目をつぶります。
一本目が終りトップはアイスフロクで、カサダは二位でした。
「さあ、いよいよ二本目よ」
念を押すように議長は言いました。二本目は成績の悪い順に飛ぶので、カサダはアイスフロクのひとつ先です。
ゆっくりと雲が動いて、お陽さまがかくれました。二本目が始まります。けれども、さやかは暗い顔をしながらうつむいていました。
(カサダさんが金メダルを取るには、アイスフロクさんより、よけいとばなければならない。でも、わたしたちがアイスフロクさんへ吹くかぎり、それはむずかしい)
やるせない想いが、糸のようにわき出て、さやかの魂にからみつきました。
(いっそ、記憶をなくしてしまいたい)
さやかは、もれることのない叫びをあげていました。そうしているうちにいよいよ競技もクライマックスです。雲のじゅうたんがとぎれて、日光が帯のようにさしこんできました。光のなかにうかぶのはカサダです。
なんて、なんてすてきな姿でしょう。あのときもこんな感じでした。はじめてカサダと出会った日も。
それは、風の精になりたてのころでした。とまどいながら、あちらこちらをただよっていたとき、練習しているカサダを見つけて、さやかは身動きができなくなりました。
青い空を横切るカサダは、まるで天をかけめぐる翼を持ったひとのようだったのです。
(カサダさん!)
一瞬、意識の何もかもがなくなって、からだが動きそうになりました。
(いけないわ、いけない!)
すんでのところで思い止まると、さやかは身を硬くしました。
議決にそむく勇気はありません。
(目をつぶるんだ。心をとじるんだ……)
顔をふせると、さやかはこごえるように震えて弱い虫のようにちぢこまりました。
そのときです。一人の風の精が、さやかのもとへ一枚の新聞をはこんできました。
「さやか、この記事を見てちょうだい」
それはカサダの記事です。
――植物状態になってしまったおさななじみのために金メダルを。カサダノリオ
記事によると、カサダのおさななじみは、トレーニング中のカサダを暴走自動車から救うために事故に遭い、植物状態になってしまったというのです。
『金メダルを彼女にささげたい。ぼくにできることはそれしかないんだ!』
という、カサダの談話が載っていました。
「ねえ、わたしたちひょっとしたら、応援する選手を間違っているのかもしれないわね……」
その声が届く間もなく、さやかはとびだしていました。はりつめていたものが、こなごなになりました。
「まちなさい! どこいくの?」と、叫ぶ議長の声も耳に入りません。
ちょうどそのとき、切裂くような音がしてカサダがジャンプしました。
歓声がこだまします。
光がふくらみます。
(カサダさん。ああ、知らなかった。そんな事情があったなんて!)
涙をこぼしながらさやかはすすみました。あるったけの力をふりしぼると、大きな夢の国へとびこむように、カサダの胸にむかってゆきました。心のリズムがはやまって、熱いかたまりがしみこむように広がって、もうとまりません。想いはのぼりつめてゆきました。どこまでもどこまでも、はてしなく……。
すすむごとにさやかは忘れていきました。自分が風の精だということも、カサダのことも、なにもかも。それは議決をやぶった罰ではありません。激しすぎる想いが、さやかの身をこわしたのです。
「カサダさん……」
つぶやきがとぎれたとき、さやかは魂だけになっていました。
*
「き、奇跡だ!」
目をひらいたゆきこを見て、カサダは思わずさけんでしまいました。
風にめぐまれたアイスフロクをのりこえてカサダは優勝しました。国に帰ると、すぐに病院へ行き、眠っているゆきこの胸に金メダルをおきました。そして、
『ゆきこ、君のおかげだよ。ありがとう』と、ささやきかけました。すると、まるで金メダルが蘇らせたように、とじられたまぶたが、かすかにうごきはじめたのです。
そう。カサダの首に金メダルがかけられたとき、胸のあたりにただよっていたさやかの魂がとけこんで、一つになって、メダルに命がやどったのです。
熱い想いのこもった……。
息がとまるほど驚いているカサダへ、ゆきこはささやきました。
「……愛しています」
それは、さやかが最後にもらしたつぶやきの続きでした。
おわり
1994年6月21日発表
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「やっぱり、アイスフロクの練習量が一番のようね」
「そうね。彼に決まりね」
明日この台で、世界中の選手が参加する大きなジャンプ大会が開かれます。そのため、風の精は、気をつかわねばならないのです。というのも、ジャンプ競技は一種のギャンブルといえるほど風が勝負を作用します。向い風があれば遠くへ飛びやすく、追風だと失速しやすくなります。
誰に向い風を強くふきつけるべきか。
風の精たちは、特別な理由がないかぎり、一番努力をした選手へふきつけようときめていました。
「それではアイスフロクに決定します」
そう言って、議長は会議をまとめました。はりつめた空気がゆるんで、風の精たちは帰りかけます。
「まあ、アイスフロクは妥当な線ね」
「そうね。努力を重ねて、あの年であそこまで復活してきたのですもの」
「カサダもよかったけど、もう一歩アイスフロクには届かないようね」
(カサダさん……)
カサダという名前が聞こえてきて、そばにいたさやかはぴくりとしました。黒い髪と茶色い瞳をしたさやかは、カサダが好きでした。気をうしなうほど想っていました。
(なぜ言えなかったのかしら。ほんとうはカサダさんこそ、向い風を送るにふさわしい選手なのに……)
もちろん、好きという身びいきだけが理由ではありません。誰もが納得できるわけがありました。けれども、ああ、どうして応援できるでしょうか。カサダが勝つと、うれしいのにつらいことがおこるのです。
(とにかく会議で決ったのだから、アイスフロクさんへ吹かなければならない。もし、きまりをやぶったりしたらわたしは風の精でいられなくなる)
さやかのけだるいため息が、夜空のかなたへ流れてゆきました。
*
夜が明けました。まだ試合前だと言うのに、スタンドはもう、色とりどりの防寒着をまとった観客でいっぱいです。記者席には世界中の新聞記者が、せわしなく行き交っています。控室では真剣な顔つきのコーチが、身振り手振りで選手へ指示していました。
風の精たちも緊張しながらうちあわせです。
「いい。わたしたちの出番は勝負が決まる二本目よ。アイスフロクがおりてきたらみんないっせいにふきつけるのよ」
ブルーの瞳をした議長が、たしかめるように声をかけました。けれども、さやかの心はまだゆれています。
(ほんとにこれでいいのかしら)
試技で飛んだカサダを見たとき、さやかは思い出しまったのです。
それは、カサダがこちらへやってくる半月ほど前のことでした。なぜなのか、いつもより早く練習を切り上げて行くカサダを見て、さやかは思わず後をおったのです。
(カサダさん! だめよ、まだまだ練習しなくちゃ。わたしあなたを応援できなくなる)
もちろん、さやかの声は届きません。練習を早引きしてまでカサダが向かった場所は、病院の一室でした。窓越しにカーテンのすきまからのぞいてみると、おさげ髪の女の子が寝ていました。
『ゆきこ。おれがんばるから。できれば…いや、きっと金メダルを取って、ゆきこにプレゼントする。だから負けるなよ』
ジャンプのときと同じくらいの表情で、語りかけていました。
(カサダさん!)
すぐにその場からさやかは逃げました。
『金メダルなんか取れなければいいのよ!』
どんなにこらえても、おしころしても、やな叫びは次々とわき出てくるのでした。
(会議のときに、このことを言うべきだった。でもどうしても言えなかった)
思いつめていくうちに、競技がはじまりました。曇空のなか、次々と選手がとびおります。そうして四〇分ぐらいすぎたころでしょうか。黄色と赤のジャンプスーツを着たカサダがあらわれました。
(カサダさん!)
さけび声をのみこむと、さやかはカサダが滑りおりてくる姿をみつめました。
とびだします!
深い前傾をかけます。
スキーがV字に開きます。
見つめるごとに、さやかのからだがほんのりとしてきました。心がいつもと違うリズムをうって、ひきこまれそうになりました。
たちきるように目をつぶります。
一本目が終りトップはアイスフロクで、カサダは二位でした。
「さあ、いよいよ二本目よ」
念を押すように議長は言いました。二本目は成績の悪い順に飛ぶので、カサダはアイスフロクのひとつ先です。
ゆっくりと雲が動いて、お陽さまがかくれました。二本目が始まります。けれども、さやかは暗い顔をしながらうつむいていました。
(カサダさんが金メダルを取るには、アイスフロクさんより、よけいとばなければならない。でも、わたしたちがアイスフロクさんへ吹くかぎり、それはむずかしい)
やるせない想いが、糸のようにわき出て、さやかの魂にからみつきました。
(いっそ、記憶をなくしてしまいたい)
さやかは、もれることのない叫びをあげていました。そうしているうちにいよいよ競技もクライマックスです。雲のじゅうたんがとぎれて、日光が帯のようにさしこんできました。光のなかにうかぶのはカサダです。
なんて、なんてすてきな姿でしょう。あのときもこんな感じでした。はじめてカサダと出会った日も。
それは、風の精になりたてのころでした。とまどいながら、あちらこちらをただよっていたとき、練習しているカサダを見つけて、さやかは身動きができなくなりました。
青い空を横切るカサダは、まるで天をかけめぐる翼を持ったひとのようだったのです。
(カサダさん!)
一瞬、意識の何もかもがなくなって、からだが動きそうになりました。
(いけないわ、いけない!)
すんでのところで思い止まると、さやかは身を硬くしました。
議決にそむく勇気はありません。
(目をつぶるんだ。心をとじるんだ……)
顔をふせると、さやかはこごえるように震えて弱い虫のようにちぢこまりました。
そのときです。一人の風の精が、さやかのもとへ一枚の新聞をはこんできました。
「さやか、この記事を見てちょうだい」
それはカサダの記事です。
――植物状態になってしまったおさななじみのために金メダルを。カサダノリオ
記事によると、カサダのおさななじみは、トレーニング中のカサダを暴走自動車から救うために事故に遭い、植物状態になってしまったというのです。
『金メダルを彼女にささげたい。ぼくにできることはそれしかないんだ!』
という、カサダの談話が載っていました。
「ねえ、わたしたちひょっとしたら、応援する選手を間違っているのかもしれないわね……」
その声が届く間もなく、さやかはとびだしていました。はりつめていたものが、こなごなになりました。
「まちなさい! どこいくの?」と、叫ぶ議長の声も耳に入りません。
ちょうどそのとき、切裂くような音がしてカサダがジャンプしました。
歓声がこだまします。
光がふくらみます。
(カサダさん。ああ、知らなかった。そんな事情があったなんて!)
涙をこぼしながらさやかはすすみました。あるったけの力をふりしぼると、大きな夢の国へとびこむように、カサダの胸にむかってゆきました。心のリズムがはやまって、熱いかたまりがしみこむように広がって、もうとまりません。想いはのぼりつめてゆきました。どこまでもどこまでも、はてしなく……。
すすむごとにさやかは忘れていきました。自分が風の精だということも、カサダのことも、なにもかも。それは議決をやぶった罰ではありません。激しすぎる想いが、さやかの身をこわしたのです。
「カサダさん……」
つぶやきがとぎれたとき、さやかは魂だけになっていました。
*
「き、奇跡だ!」
目をひらいたゆきこを見て、カサダは思わずさけんでしまいました。
風にめぐまれたアイスフロクをのりこえてカサダは優勝しました。国に帰ると、すぐに病院へ行き、眠っているゆきこの胸に金メダルをおきました。そして、
『ゆきこ、君のおかげだよ。ありがとう』と、ささやきかけました。すると、まるで金メダルが蘇らせたように、とじられたまぶたが、かすかにうごきはじめたのです。
そう。カサダの首に金メダルがかけられたとき、胸のあたりにただよっていたさやかの魂がとけこんで、一つになって、メダルに命がやどったのです。
熱い想いのこもった……。
息がとまるほど驚いているカサダへ、ゆきこはささやきました。
「……愛しています」
それは、さやかが最後にもらしたつぶやきの続きでした。
おわり
1994年6月21日発表
