男女間のもつれから、刺殺事件が起きた。場所は、
国立オリンピック記念青少年総合センター。
ヰズミたちは、そこを
『オリンピックセンター』と呼んでいた。
オリンピックセンターはその名からもわかる通り、東京オリンピック(1964)の翌年、選手村跡地の一部を利用して発足した。ヰズミたちが利用していたのは、主に今から20年ほど前。当時のオリンピックセンターは貧乏小劇団の趣があった。
というのも、その頃はオリンピックから既に20年が経過し、設備はボロボロ。まともな施設を借りられる人たちは、とても手を出さないだろうという状況だったからだ。
嘗てはミーティングルームであったと思しき部屋は、戸はガタつき、床のピータイルが所々剥がれているという状態。
「近いうちに取り壊しになるらしい」という、かなり現実味を帯びた噂が囁かれていたほどだ。
それでも格安の使用料は魅力的であり、都内にこれだけいたのか? というほどの貧乏劇団が聖地巡礼の如く集っていた。
役者だけではなくダンサー、お笑い芸人、それから、その呼び名が市民権を得つつあった“パフォーマー”という肩書きの人たちが、それぞれの部屋で稽古していた。
各フロアの突き当たりには他よりも大きな部屋があり、そこを借りられたときはまさしく
「ラッキー!」だった。
「おい、今日は実寸(本番の舞台と同じスペース)で稽古できるぞ!」
ということだ。
平成直前の頃のこと。
のちに“噂”は現実となり、現在は当時とは全く違う綺麗な環境になっているようだ。
そのオリンピックセンターで、事件は起きた。
加害者は43歳の男、被害者は26歳の元交際相手。
なんだか⋯⋯色々⋯⋯つらいなぁ⋯⋯
