山中のアヒル  エッセー

山中のアヒル(九月二十五日)

昨日の夕方、隣町のダムまで出かけた。

長袖シャツ一枚には夕風が冷たく、この季節、出かけるときの服装はあなどれないと肝にめいじた。

ダム湖に沿って走っていると、上手の方から何か白いものが流れてくるのが見えた。

鳥のようだ。

白鳥? まさか、まだ早すぎる。

しかし、怪我でもして去年保護された白鳥ということも考えられる。

ダムのなかほどで車を降り、近くを散策することにした。

するとまもなく、さっきの白い鳥が湖を下ってくるのが見えた。

最初に鳥を見かけたところから1kmくらい下流であることを考えれば、かなりの速さだ。

鳥は湖の中に顔を出している石のところまで来ると、急にリラックスしたように羽を広げたり、羽づくろいをし始めた。

石の小島の面積は二uくらいで、島の近くにはダムが造られた時に沈んだらしい枯れ木が立っているが、草などはない裸の島だ。

双眼鏡で覗いてみると、鳥はアヒルであった。

くちばしが黄色い。

人の声が聞こえたと思い、双眼鏡をはずすと、アヒルに向かって釣りのボートが近づいていた。

ボートの上の三人がなにやら騒いでいる。

山中のダム湖の真中にアヒルがいる珍しさに声をあげているのだろう。

あたりが暮れなずんでも、アヒルは島から帰らない。

月が輝きをましてきても、アヒルは帰ろうとしないどころか、石の小島の上に上がり、うずくまったり、立ち上がってはまたうずくまったりを繰り返している。

そのうち、アヒルはとうとう白い大きな卵のように丸くなってしまった。

石の上で夜を過ごすつもりらしい。

冷たい風の吹き渡る湖の上で夜をしのぐということは、アヒルは飼われているわけではなさそうだった。

きっと、誰かが捨てていったのだろう。

以前、知人が「アヒルを山に捨ててきた」というのを聞いて、唖然としたことがある。

それにくらべれば、あのアヒルは水辺に捨てられたのだから、まだしもとは思う。

こんなに大きな湖を、誰にも気兼ねなく、自分の湖として使えるのだから、、、。

それにしても、人間世界から見れば、これはルール違反というものだ。

あのアヒルは、でも賢い。

最初は、「なにも、こんな寒いところで夜をこさなくても」と、思った。

だが、よくよく考えれば、あの石の小島は、吹きさらしの湖上とはいえ、キツネやイタチに襲われる心配のない、ぐっすり眠れる場所なのだろう。

それにしても、真冬はダイアモンドダストが見られることもある寒い山中だ。

アヒルはこの後どうなるのだろう。
   
昨夜から、我が家は毛布を使い始めた。



タグ: アヒル



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