2011/9/3

森達也著「A3」への講談社ノンフィクション賞授賞に抗議-1  メディア・ネット

※※別紙を含めて、その1からその13まであることにご注意を。※※

※その1

     記 者 会 見 要 旨     2011.9.2

昨日9月1日付で、講談社あてに、別紙のとおりの抗議書2つを送った。日本脱カルト協会作成のものと、3人作成のものの2本になる。本日は、合同の記者会見となる。

抗議書の趣旨は、いずれも、講談社がオウム真理教とその事件を扱った「A3」森達也著(集英社インターナショナル刊、2010年11月)に対して、平成23年講談社ノンフィクション賞を授与することについて、抗議するというものである。なお、その授賞式は9月5日と聞いている。

その理由要旨は、日本脱カルト協会にあって、次の通りである。「A3」は「弟子の暴走論」を結論づけているが、教祖の地裁判決文を初めまともな取材・分析・検討がなされていない。講談社にあってかかる賞を授けたとき、事件発覚から16年を経過している今日、残存するオウム集団として若者勧誘の助力になるなど、社会的な影響が看過しがたい。具体的には、地下鉄サリン事件はもちろん一連の事件についての教祖の指示など確定判決を記述せず考察していないこと、実行犯と面談・手紙のやり取りを先入見で利用していること、松本死刑囚の陳述についてさえも記述・分析していないことを指摘する。

3人の抗議理由は、上記のまともな研究ないままの「弟子の暴走論」に加えて、「A3」が、引用が恣意的であり誤導している部分があること、松本死刑囚の視力障害につき水俣病説など信用性のないものまで引用し分析もしていないこと、背景である映画「A」の重要な情報を提供していないこと、選者にオウム真理教の維持拡大に外部の者として最大の功績がありその総括もしていない中沢新一氏が含まれていて疑義があることなど、である。

 根拠のない持論ばかりで実証性がなく結果として「弟子の暴走」による教祖の無罪論を示す著作に対して、講談社が優秀なノンフィクションと評価し授賞することは、社会的な権威付けにより虚報を世間に知らしめ、後世に誤った歴史を残すばかりでなく、オウム事件を知らない世代に対して有害となる。我が国を代表する大手出版社に良識ある判断を求めるべく、抗議するものである。
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日本脱カルト協会の紹介 −その抗議書冒頭に記載のとおり

西田公昭の紹介
 1960年、徳島県生まれ。現在、立正大学心理学部対人・社会心理学科教授。関西大学大学院社会学研究科博士後期課程単位取得後、1997年にマインド・コントロールをテーマにした論文で博士(社会学)。専門領域:社会心理学。信念の形成や変化のメカニズムを主軸に研究をおこなうなかで、破壊的カルトの「マインド・コントロール」について実証研究を行い、内外の学会にて発表してきた。それらは日本社会心理学会研究優秀賞を1995年と2001年の2回、1999年日本心理学会研究奨励賞を受賞。なお、一連のオウム事件や統一協会などの多数の裁判において、法廷証人および鑑定人として幾度も召還された。元日本グループ・ダイナミックス常任理事、日本社会心理学会機関紙「社会心理学研究」元編集委員、NPO法人小諸いずみ会理事など。
主著:「マインド・コントロールとは何か」(紀伊国屋書店)、「信じるこころの科学:ビリーフ・システムとマインドコントロールの社会心理学」(サイエンス社)、「だましの手口:知らないと損する心の法則」(PHP新書)、「親は何をするべきか:破壊的カルトのマインドコントロール」(いのちのことば社)、「カルトで傷ついたあなたへ」いのちのことば社、「カルトと若者」(ブレーン出版)など。
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2011/9/3

森達也著「A3」への講談社ノンフィクション賞授賞に抗議-2  メディア・ネット

※その2
3人の紹介       −以下の通りである。

青沼陽一郎
 作家・ジャーナリスト。日本文藝家協会会員。オウム真理教裁判を多数継続的に傍聴し教団の実態を報じてきた。刑事事件、裁判、輸入食品問題などについての記事執筆が多い。著書に「オウム裁判傍笑記」(小学館文庫) 2007年7月、「私が見た21の死刑判決」 (文春新書)2009年7月、「池袋通り魔との往復書簡」 (小学館文庫)2002年4月、「食料植民地ニッポン」(小学館)2008年3月、「帰還せず―残留日本兵六〇年目の証言 」(新潮文庫)2009年7月、「中国食品工場の秘密」 (小学館文庫)2008年5月、「裁判員Xの悲劇 最後に裁かれるのは誰か」(講談社)2009年4月。
 昨今は週刊誌にて署名原稿を多数寄稿。

滝本太郎
 弁護士、54歳。1989年11月友人坂本堤弁護士一家事件を契機にオウム真理教被害対策弁護団に入り民事訴訟のほか様々な調査活動。1993年7月末から、元出家者の永岡辰哉氏と共にカウンセリング活動を始める。教祖の最終解脱の証明「空中浮揚」を自ら被写体となって写真に。これらが動機となり1994年5月9日、自動車の空気吸入口付近に化学兵器サリンをかけられたが、換気を車内循環にしていたためか縮瞳のみで生存。この事件外により教祖らが有罪となる。1995年6月、オウム真理教脱会者に集まり「カナリヤの会」ができて窓口、会報「カナリヤの詩」など発行。一連のオウム真理教裁判には、検察や弁護側で何回も証人になり、被告人とも面会を重ねる。無宗教。著書に「マインドコントロールから逃れて」(共編著、恒友出版)1995年、「破防法とオウム」(共著、岩波ブックレット)1996年、「宗教トラブル110番」(共著、民事法研究会)1999年、「オウムをやめた私たち」(カナリヤの会編)2000年、「異議あり!奇跡の詩人-ドーマン法、FCの真実」(共編著、同時代社)2000年

藤田庄市
 フォトジャーナリスト 日本写真家協会会員。1947年生。大正大学文学部(宗教学専攻)卒。カルト問題、シャーマニズム、新宗教、政治と宗教、聖地、山岳信仰、伝統仏教、民俗芸能など宗教取材に従事。オウムの現場取材、法廷の傍聴、被告との面会を重ねる。オウムやカルト問題の著書などは以下の通り。『宗教事件の内側―精神を呪縛される人びと』(岩波書店)2008年、『オウム真理教事件』(朝日新聞社)1995年、「オウム真理教事件の源流―シャンバラ王国幻想から無差別大量殺人への道程―」(『情報時代のオウム真理教』春秋社、2011年)、「宗教ジャーナリズム確立のために」(『ジャーナリズムの条件3 メディアの権力性』岩波書店、2005年)、「あるオウム信徒(早川紀代秀)の死刑確定まで―宗教的論理と世俗的理解の相克」(『世界』2010年1月号)など。ほかに『行とは何か』(新潮選書)1997年、『熊野、修験の道を往く』(淡交社)2005年、など著書多数。
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2011/9/3

森達也著「A3」への講談社ノンフィクション賞授賞に抗議-3  カルト・宗教・犯罪

※その3
 オウム集団の現況−アレフ 

2010年3月29日入谷施設を取得、1億円余。所有者は合同会社宝樹社。埼玉県越谷市北越谷1-20-6さくらマンシヨン101号、つまり宗教団体アレフ所在地と同じ。代表役員もすべてアレフ幹部。独房での監禁、薬物の心配。

2011年夏までに世田谷烏山の賃借施設を退去し、移動。足立区は2010年条例を制定。都市ガス供給のための道路占用許可をしないことで区に訴訟、区の新条例に基づく報告をしないので過料5万円を課したことにつき訴訟。警視庁公安部の長官銃撃事件報告書の1か月HPにつき、アレフが原告、東京都と池田克彦警視総監を被告に、謝罪広告と金5000万円の国家賠償請求訴訟。

教祖妻と三女の関与が、野田成人と脱会している四女の各書籍で暴露された。子どもらは1995年後も母やお付の偽脱会者によりオウム集団の環境下に。2012年には長男20歳、懸念。2010年越川真一メッタジー正悟師が出所し戻ったが疎外されている。2011年村岡達子ウッタマー正悟師が脱会。出家者220人程、在家1000人弱、出家者は減り在家は北海道など増えている。

オウム集団の現況−ひかりの輪
各地の神社などを回っている。麻原認定のままの実質位階制。密教仏具販売、上祐説法。21世紀の新しい宗教を創造するとして、インターネット対策、上祐のマスメディア露出。あくまで「大人の過激派」として麻原隠し続けていると見るべきか、麻原離れとみるべきかの2つの考え。2012年観察処分見込みにつきどう対応するか。幹部男性一人、支部責任者女性一人が脱会。出家者20人強、在家180人強

オウム集団の現況−その他分派
 ケロヨンクラブ、ナチュラルテラ外幾つか。「一人オウム」の心配。  以上
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2011/9/3

森達也著「A3」への講談社ノンフィクション賞授賞に抗議-4  メディア・ネット

※その4

※※ご注意※※
 以下の抗議書は3人で出したものです。日本脱カルト協会の抗議書は、この「8」までを、よりコンパクトにしたものです。下記にあります。
http://www.jscpr.org/activity.htm#20110903
なお、松本死刑囚への確定地裁判決文は下記にあります。
http://www.cnet-sc.ne.jp/canarium/trial/4-6.html



         抗  議  書

2011年9月1日
                    青  沼  陽 一 郎
                    滝  本   太  郎
                    藤  田   庄  市
                          (50音順)
株 式 会 社 講 談 社  御中
代表取締役社長野間省伸  殿

               記
貴社にあって、「A3」森達也著(集英社インターナショナル刊、2010年11月)に平成23年の講談社ノンフィクション賞を授与するとの報に接し、ここに、次のとおり抗議する。

1 オウム真理教およびその事件の重大性と特質 
 いわゆるオウム真理教とその事件は、1995年発覚した戦後日本における最大かつ一連の刑事事件として、果ては化学兵器まで使った無差別大量殺人事件として、また教祖の麻原彰晃こと松本智津夫死刑囚と実行犯ら弟子の関係の異様さから大きな関心を集め、その裁判も様々な分析ともども、日本国中のみならず世界的な関心事となっている。
 それら内容は、過去の事件にとどまらず将来にわたって類似の事件を再来させてはならないという観点から、今後とも関心が持たれ続けるべき事柄である。

2 「弟子の暴走」論に帰着する「A3」
  書籍「A3」は、オウム真理教を内側から描いたという映画「A」「A2」の監督である森氏が、月刊PLAYBOYに連載していた記事をもとに集英社インターナショナルから平成22年11月30日発行された。
  「A3」は、松本死刑囚にかかる刑事裁判を軸として様々な記述をしているところ、地下鉄サリン事件を中心として、ほぼ確信しているものとして「弟子の暴走論」を結論づけている(485ページ)。すなわち
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  連載初期の頃、一審弁護団が唱えた「弟子の暴走」論について、僕は(直観的な)同意を表明した。二年半にわたる連載を終える今、僕のこの直観は、ほぼ確信に変わっている。ただし弟子たちの暴走を促したのは麻原だ。勝手に暴走したわけではない、そして麻原が弟子たちの暴走を促した背景には、弟子たちによって際限なく注入され続けた情報によって駆動した危機意識があった
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というのである。
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2011/9/3

森達也著「A3」への講談社ノンフィクション賞授賞に抗議-5  メディア・ネット

※その5

3 司法の認定や実行犯の供述と真反対の「弟子の暴走」論

 「弟子が暴走」したとすることは、松本死刑囚は刑事法上も無罪であって、「首謀者ではない」という主張に帰結する。森氏にあってどのような文学的な修辞を施そうと、そう把握される。森氏自身も、「A3」の94ページで、「弁護側は、起訴された13の事件すべての背景に『弟子の暴走』が働いているとして、被告の全面無罪を主張した。」と無罪主張に帰結することを認めている。

 しかし、松本死刑囚が被告となっていた一連の事件に関しては、最高裁判所での判決を含めすべて松本死刑囚の指示があると認定し、また松本死刑囚を「首謀者」と認定している。例えば、土谷正実死刑囚に対する最高裁判所2011年2月15日判決では「被告人の本件各犯行が,松本死刑囚らの指示に従って行われたものであること,被告人は,サリンやVXを使用する殺人等の実行行為に直接関わっておらず,また,これらを用いた個々の犯行の具体的計画を知る立場にもなかったこと,被告人には前科もなく,犯罪的性向を有していたわけではないことなど,所論指摘の諸事情を十分考慮しても」として松本死刑囚の指示を認めている。

 さらに、「首謀者」の裏付けとなる「グルと弟子」といった異様な服従の関係は、弟子らについて鑑定をしてきた精神科医・社会心理学者らによっても認定され、また弟子らの判決文にも多く示されている。新実智光死刑囚に対する東京高等裁判所2006年3月15日判決でも「いずれも教祖の指示があって,被告人はこれに従って実行したものである。被告人がどう言おうと,客観的には,他の弟子らと同様に被告人は,松本被告によって,その帰依の心を最大限利用されて,悪質な実行行為をさせられたというべきものである。」としている。 さらに例えば、林泰男死刑囚への2000年6月29日東京地裁判決には「麻原および教団とのかかわりを捨象して、被告人を一個の人間としてみるかぎり、被告人の資質ないし人間性それ自体を取り立てて非難することはできない。およそ師を誤るほど不幸なことはなく、この意味において、被告人もまた、不幸かつ不運であったと言える」とある。死刑判決の中にかような文脈があるのは、まさに異例中の異例である。

 松本死刑囚が首謀者であり、その指示に基づく犯罪だと言うことは、傍聴し続けた多くの識者の分析からも指摘されてきたことであり、何よりも実行犯である弟子らが明白に証言してきていることである。松本死刑囚の東京地方裁判所の判決公判を傍聴しただけの森氏にあっては、直接には見聞しなかったことであろうが、様々な記録から極めて容易に分かることである。なお、松本死刑囚の刑事弁護人らが被告人の有利になすべく様々な主張をなすは、職務上当然のことである。

 一連の事件の首謀者が誰であるのかは、司法のみならず、歴史上オウム真理教と事件を正しく把握しようとするとき極めて重要な論点であり、その点に誤りがあっては、事柄の本質をまったく違えてしまうという外はない。
しかるに、「A3」の「弟子の暴走」論は、オウム真理教事件にあって松本死刑囚の指示とか「首謀者である」という結論をつまりは否定しているのである。なおさら十分な検証が必要となる。

4 講談社が「A3」にノンフィクション賞を授与することの意味
 書籍は、単に一般に出版されるだけでならば、所詮一筆者の論述にすぎないとして格別の影響力を持たないことがある。森氏の月刊PLAYBOYでの連載も書籍「A3」にある「弟子の暴走」論は、司法判断をあまりに無視したものであったこともあろう、社会的な影響力をほとんど与えなかった。

 しかし、権威を備えておられる貴「講談社ノンフィクション賞」を受賞したとなると、後世に残り得るものとして、多くの人が関心を持つことになる。そしてその権威からして、後世に、その内容にわたっても相当の信頼性があるものと思われる蓋然性がある。
まして、事件発覚から16年を経過している今日、若者はオウム真理教の実態もオウム裁判の情報も得ていないことが多い。その状況で、かかる受賞までしている書籍だということとなれば、影響は看過しがたいものがある。
 オウム真理教にあっても、有力な出版社である御社から賞まで与えられて「弟子の暴走」論を支持しているとか「教祖の無罪」を支持しているとして、信者の勧誘・維持のために有力な材料として使えることとなる。事実、後継団体の一つであるアレフは未だ残存しており、オウム事件は他からの陰謀事件であった、教祖は無実だが「殉教」されてしまうなどとも言っているところ、その維持・拡大の助力となるのである。

 貴社が、「A3」にノンフィクション賞を授与することは、このような重大な意味を持つ。
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2011/9/3

森達也著「A3」への講談社ノンフィクション賞授賞に抗議-6  カルト・宗教・犯罪

※その6

5 刑事事件・裁判と「ノンフィクション」について。
 
講談社ノンフィクション賞は、受賞基準といったものが事前に決まっていないようであるが、ノンフィクションは、「創作をまじえない、事実そのままのもの。記録文学、紀行文、記録映画など」であるから(講談社『現代実用辞典』第二版2010年2月1日第一七版)、作品である以上創造的な再現描写や主観部分が入ることはあり得ても、事実を歪曲させてまで個人の見解を披露している創作については「ノンフィクション」に値しないことも、また明らかであろう。

 刑事事件や裁判に関する事柄の著作でも、優秀な「ノンフィクション」が成立することはもちろんある。戦後日本の作品群にあっても、いくつもの裁判、特に確定判決についてさえも判決の信用性、説得力のなさや証拠との矛盾、またさまざまな証拠の別の見方、新たな証拠の呈示・説明をするなどしたノンフィクションも多くあり、中には後に再審無罪となった事案にかかるものまであるのである。そのような水準に達していると思われる「ノンフィクション」の場合、推薦されるべき優秀に作品として、賞に値することも十分にあろう。

 したがって、「A3」特にその中の弟子の暴走論についても、ノンフィクションとして十分な報告、分析をふまえてなされていて質が高ければ、多くの確定判決とは矛盾するが、1つの視点、考え方を示したものとして、授賞に値することも、論理上はあり得なくはない。
 しかし、「A3」がこれに達していないこと明らかである。

6 教祖の指示など確定判決を検討・記述せず、考察していない「A3」 
すなわち森氏は、1995年3月20日朝の地下鉄サリン事件につき、「弟子の暴走論」と矛盾する多くの事実について、確定している2004年2月27日の東京地裁判決文に示されている松本死刑囚の関与さえ記述せず、また考慮もしていない。
そもそも森氏は、531ページにものぼる「A3」の中で、27ページの1カ所のみにてこの判決文のごくごく一部を紹介したにとどまるのであって、実に驚くべきことである。

 松本死刑囚の地下鉄サリン事件における指示は、3月18日未明のいわゆるリムジン謀議を別としても、具体的には、別紙1のとおりである。
 その他の事件についても、まったく同様である。森氏は、起訴されている事件だけでも1989年2月の田口修二君殺人事件以降、実に多くの事件があって、それらには松本死刑囚の指示などあると具体的に認定されているのに、これをほとんど書いておらず、「弟子の暴走論」の矛盾点を覆い隠している。具体的には別紙2のとおりである。
 これらは様々な反対尋問をも経て認定されている松本死刑囚の指示であり、遺体の状況、サリン副生成物の検出その他の多くの客観的な証拠とも合致していることからこそ、判決で認定されている。それは多くの判決書、傍聴記を検討すれば勿論得られる情報であり、インターネットでも検索できるものである。もとより、森氏が唯一傍聴したと自認している公判は、この判決文が朗読された東京地裁での判決公判であって、知らないとは言えない筈であろう。それをも確認、分析そして記述しないままに、どうしてノンフィクションと言えるのであろうか。

 森氏は、地下鉄サリン事件の動機についてミスリードもしているが、これが原因かとも思われる。すなわち、「A3」の冒頭8ページには、地下鉄サリン事件の犯行動機について「そもそもが『自己が絶対者として君臨する専制国家を建設するため』と『警察による強制捜査の目をくらますため』なる理由が共存することからして、論理として破綻している。もしも麻原を被告とする法廷が普通に機能さえしていれば、この程度の矛盾や破綻は整理されていたはずだ」と指摘する。

 しかし、前記判決は、地下鉄サリン事件の動機をこう認定している。「被告人は,国家権力を倒しオウム国家を建設して自らその王となり日本を支配するという野望を抱き,多数の自動小銃の製造や首都を壊滅するために散布するサリンを大量に生成するサリンプラントの早期完成を企てるなど教団の武装化を推進してきたものであるが,このような被告人が最も恐れるのは,教団の武装化が完成する前に,教団施設に対する強制捜査が行われることであり,(中略)現実味を増した教団施設に対する大規模な強制捜査を阻止することが教団を存続発展させ,被告人の野望を果たす上で最重要かつ緊急の課題であったことは容易に推認される」と。森氏は、地下鉄サリン事件の動機について、判決文を示さないままに、明白なミスリードをしているのである。

 これらが、森氏の意図的なものでないとするならば、取材の意欲と取材力、何より真摯な態度が圧倒的に不足していることを示している。それにもかかわらず、「A3」では「弟子の暴走」論を実に安易に結論づけられているのである。
 いわば先入見を記述しているに過ぎないこのような「A3」が、いったいどうしてノンフィクションとして推薦できるのだろうか。
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2011/9/3

森達也著「A3」への講談社ノンフィクション賞授賞に抗議-7  メディア・ネット

※その7

7 実行犯と面談・手紙のやり取りを先入見で利用している「A3」

 森氏は、面談した被告人らの話を軽視し過ぎている。松本死刑囚のもとで極悪な事件を起こした被告人らは、死刑が確定せんとする状況下で森氏との面談に協力し、また文書を送るなどしてきた。その中では、多く森氏の「弟子の暴走」論を遠慮がちに諫めているところ、その一部を紹介しつつも自らの「判断」を率直に顧みることなく、つまりは「弟子の暴走論」に終始させている。

 これら面談内容や供述や文章は、『最終解脱者』『教祖麻原彰晃』の桎梏を離れた獄中で死刑判決を受けた立場になっていた者らが、喉から血を吐くようにして述べているものであり、ノンフィクションであらんとするとき、あだや疎かにしてはならない情報である。疎かにするはたとえ重大な罪を犯した者らだとはいえ、人の命に対する冒涜である。

 もとより、それぞれの視点とアプローチ、さらには「先入見」が異なろうことは当然にあるが、ノンフィクションとする以上、真実に肉薄しようとしなければならないはずである。ノンフィクションは「フィクション」ではないし、矛盾した多くの情報までも捨てて、自分の先入見を披露する場でもないのである。
 そんな、「A3」が、どうして優秀なノンフィクション作品として、推薦できるのだろうか。

8 松本死刑囚の陳述についても記述、分析していない「A3」
 森氏は、実は、松本死刑囚の弁論更新時になされた罪状認否、すなわち1997年4月24日の意見陳述のほとんどを記述せず、また分析していない。一部記述はあるが、精神状態の説明として利用するために記述しているだけである。すなわち陳述の最終部分の記述のみ示し(19−24ページ)、森氏はこれを引き合いにして、松本死刑囚の精神状態が普通ではないと主張しているのである。
しかし、松本死刑囚は、当日、実に驚異的な記憶力にて起訴された順番に個別具体的に認否しているのである。後に裁判の早期の進行のために起訴が取り下げられた事件を含めて認否している概要は、別紙3のとおりである。

 これらの陳述の部分も、文献やインターネットで容易に入手できるものである。しかし森氏は、これらをなんら記述していない。本人の陳述自体からして「弟子の暴走論」が成り立つのかをつまりは分析しようとしておらず、先入見を記載しているだけなのである。「弟子の暴走」だったのかどうかにつき、この松本死刑囚本人の陳述を考察しないなどあり得ない態度である。
 このような手法の上で「弟子の暴走」論に帰着させる「A3」の、いったいどこがノンフィクションなのであろうか。
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