最近「鉄道ブーム」と呼ばれている状況について、ワタシはかねがね疑問に思っている訳なのだが、その疑問について、ある人から「こうではないか?」と言われたのでメモしておく。
まずは長い前置きから。
ワタシは、かつての「SLブーム」、「ブルトレブーム」の状況について、一応理解をしているつもりである。もともと鉄道に興味の無かった人がどっと「こっちの世界」に流入、鉄道関係の書籍だけでなく、鉄道雑誌がいくつも立ち上がり、グッズが開発され、そういう嬉しい事の一方で迷惑な連中が増えて問題になるという状況である。
ところが、今回の「鉄道ブーム」では「普段とあまり状況が変わっていない」と感じているのだ。
たとえば「Bトレインショーティー」、「鉄道コレクション」といった人気グッズ類は、この「鉄道ブーム」の下地でありこそすれど、「ブームだから企画がなりえた」商品とは言えない。雑誌についても、もともと鉄道の好きな中高年に特化した雑誌は出ても、例えば話題になっている「女子鉄」向けの雑誌が刊行されない。せいぜい単発の書籍が出るにとどまっている。
もし本当にブームであるなら、単発の書籍であっても、コロタン文庫やヤマケイのレイルシリーズのごとく、一つのシリーズが怒涛のように出版されるはずである。
NHKのクローズアップ現代においてこの「鉄道ブーム」が特集されたが、冒頭に流れたのは、上野から北陸方面に向かう在来線の列車の廃止に駅に足を運び撮影する人々…
この人達は実の所、「ブームだから撮影している」訳ではない。ブームかどうかに関係なく、廃止や新規開業があれば足を運ぶのだ。ブームと関係ない時期に起きた信越線碓氷峠の区間廃止でも、ものすごい人でごった返していた。ウソではない。ワタシゃその場にいたもの。
で、本題。
ワタシの聞いた意見というのは、今回起きているのが「実はディスカバー・ジャパンのキャンペーンや、アンノン族の流行った時と同じ事が起きているんじゃないか?」というモノなのである。
その昔、1970年代以降に、個人旅行の楽しみを覚えた女性が、一人で、あるいはグループで、妻籠宿とか、太宰治の出身地とか、遠野とか、北海道の大自然とか、清里もそうか。そういった所に足を向けた。今、その対象が「鉄道」とか「工場」、「昭和の風景」、「廃墟」といったものになっているのではないか? という事なのである。
先にあげた「クローズアップ現代」でも、アンノン族世代と思われる女性が鉄道で旅をしている様子が映し出されていた。おそらく子育ての忙しい時期を終え、昔のように鉄道での旅を楽しむようになった人も多いのだろう。
また、同じ番組には、台湾からの鉄路迷の女性の姿もあった。台湾では今、国鉄の旧型客車の廃止、電車化、新幹線の開業、SL列車の運転と、「昔の日本」のような状況で鉄道好きが活発に動いている状況である。
鉄道が軍事施設として撮影も制限され、歩哨が立っていた頃も今は昔。経済も安定している。
そんな中で、台湾以外に気軽に行ける「乗り鉄」先として、日本に注目しても全くおかしい事ではない。この女性が収集していた「駅スタンプ」は、まさに「ディスカバー・ジャパン」当時に日本各地に設置されたものである。
そういえばこの間、妻籠宿を通ったら「中国語の方がたくさんおいでになる」と伺ったな。
さて、日本の場合、こういった所に旅行する相手は、昔から近所にいるとか、高校・大学のサークル仲間とか、職場での知り合いという事だったのだが、最近はインターネットで知り合ってのオフ会というのも増えている。ワタシも参加したことあるし。
そういった方向での、コミュニケーション手段としての「鉄道の旅」というのもあるのだろう。
コミュニケーションが第一で、趣味としては二の次と言うのは、スキーとかゴルフとか、登山でもある話と聞いている。ただ、「鉄道の旅」はあまり道具が要らない為に、ハードルが低いように思う。
そこまでは踏み込めなかったのは、現代を「無縁社会」という事にしたい人達の影も見えて興味深いのではあるが。

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