最近鉄道がブームである。という幻想を聞くことがあります。しかし実感として、鉄道好きを長いことやっている自分にはそんな事は全くありません。
民間人を巻き込んだ鉄道のブームといえば、1960年代頃からの蒸気機関車のブームがありました。私はリアルタイムではあまり知らないのですが説明はいらんでしょう。多くの人が撮影、映像(8ミリフィルム!)、録音、乗車、切符の収集、模型その他ありとあらゆる手段で楽しんだり狂ったりしました。「蒸気機関車」とか「SLダイヤ情報」なんていう雑誌もインフラとして整備されました。「鉄道ファン」誌も蒸気機関車の特集を結構やってましたね。「ハドソン」というゲームメーカーがありますが、昔は鉄道写真の通信販売をやっていて、あれはC62の軸配置が語源というのは有名な話です。
国鉄の「ディスカバージャパン」のキャンペーンも、盛りあがった要因の一つでしょう。
これは1975年に(一旦)国鉄の蒸気機関車が引退するまで続きます。「蒸気機関車は引退した。山口線のはあくまでエスエルだ」といった人もいます。
ブルトレブームというものもありました。こっちは記憶に強く突き刺さっているので色々話せます。
1970年代終わりだったかな。実は正確には「国鉄特急(の絵入りマーク)ブーム」なのかもしれません。少年向けの鉄道本もそれ以前にすでに出まわってましたし、「鉄道少年」っていつの時代もいるもんですが、あの「絵入りマーク」の頃には(昨日まで興味なかった同級生の参入が)異常に増えた記憶があります。
これは、ガキにとって国鉄特急が、スーパーカーやピンクレディーやUFOと同じモノだったからでしょう。マスコミが仕掛けた部分もあるように思います。
駄菓子屋には「仮面ライダースナック」のような「ブルートレインガム」やそのパチモン商品まで並び、夕方(っちゅうか夜)になると駅の近くまで行って通過を眺めたりしたものです。もう少し上級者になるとコロタン文庫(これがバカにできない資料になる)買ったり、廣田さんの写真集とか買ってもらったりしたものです。うっかり「鉄道ファン」買ってもっとディープな世界を知るヤツとか。実際に乗るのはもっと上級で。
鉄道模型はなかなか買ってもらえませんでしたが、これもなんかすごかったですね。HOゲージだと私はリマやメルクリンしか店では見たこと無かったんですが、日本型Nゲージ、関水金属(カトーとは呼ばれてなかった)、すでに「トミックス」と呼ばれ始めたトミーの両巨頭はもちろん、エーダイナイン(のち学研Nへ)、エンドウ(あのMPギアのエンドウですよ)、ブルートレインは無かったけどしなのマイクロ(のち旧マイクロエース)、中村精密(のちナカセイ、一部金型はモデモへ)、グリーンマックスもありました。
この頃は山口線のSL運転もあったし、ミステリー列車とか「つばめ」復活とかあったし、国鉄の「チャレンジ20000Km」というキャンペーンもあったし、(のちのインフラとして重要な)「のびのび切符」発売にも繋がってくるんですが、ブーム自体は1982年頃には沈静化に向かったように思います。飽きた人も多いでしょうし、上野口の特急の大幅削減も響いて(新幹線は画としては地味)マスコミも(安易な)鉄道の特集をしにくくなったんでしょう。長距離列車「富士」も宮崎止まりになったりしました。
もちろん鉄道を追い続けた人達もいる訳ですが、その人達はすでに「ブームだからやっている訳ではない」のでここでは除外します(爆)。
さて、昨今の状況はどうでしょう? まず「蒸気機関車」、「ブルートレイン」のような明確な「核」がありません。ただただ鉄道関連の様々な書籍が出ているだけの状況です。
あえて言うならば、キーワードの一つは「昭和」という事でしょう。単なるノスタルジーとして中高年層に向けて提供しようという出版社側の意図が見てとれます。児童向け出版物の少なさには、次の世代に語り継ごうという前向きな精神の欠如が見られます。
余談ながら児童向きといって該当するのは雑誌の「鉄道おもちゃ」「鉄道だいすき」ぐらいでしょう。しかし「鉄道おもちゃ」は新製品がハイペースで出ているからこそ成り立つ本であり、「鉄道だいすき」はあのような「ウケるネタの総ざらえ」ばかりだと、雑誌ペースでは多分早々にネタ切れになると思います。
もうひとつ、実は今回、注目を集めているのは「鉄道」そのものではないのではないか? と私は思うのです。注目を集めているのは「鉄ちゃん」と呼ばれる人、「鉄子」と呼ばれる人、上手な鉄道模型のレイアウトを作る人、好きが高じて交通博物館の学芸員になった人、そういった「趣味人ウォッチングブーム」にすぎないのではないか? という事です。
そう、「鉄子の旅」も「タモリ倶楽部」もなんとかベルズも関口クンの旅も「特急田中3号」(笑)も私に言わせればみんなそうです。「鉄道」ではなく「人間」を映しているにすぎません。
特にNHKやBS放送など登山だのアニメだの趣味番組がずいぶんやってますが、趣味そのものより、趣味をやっている「人間」にスポットを当てる事ばかりを強調しすぎているように思えてなりません。
そうでなければ番組にならないのかもしれません。が、別に私は人間ウォッチングに興味無いし、観察対象にされるのはまっぴら御免だなあと思います。

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