JR白石駅前、件の立ち喰いソバ屋である。
通勤電車から見えるので以前から気にはなっていた。なぜ気になったかと云えば、そう、見た感じが何となく怪しげだったからだ(笑い)。過日、昼前に独りでフラっと入ると人気の無いカウンターの奥で主とおぼしき人影がゴソゴソと動いていた。何時からかと問いかけると11時頃からだと言う。しかし、時計はすでに11時半を回っている・・・やっぱり怪しい。
天玉を注文しながら、変った店の作りですね≠ニ言うと、ご亭主いわく怪しいでしょ?≠ニ切り返してきた(笑い)。これには思わず声を立てて笑ってしまった。ご亭主それにもつられてニンマリ。ここからカウンター越しに話がはずんだ。会社勤めをやめ、この6月から店を始めたとのことである。隣のコーヒー屋・ANKINTANとはドア一枚で行き来ができ、どちらで食べても飲んでもOKだ。
夜はビールと焼酎、簡単な肴も出す。特に怪しくてオススメなのはコーヒー屋の二階席である。しかし、怪し過ぎてまだ誰も二階には上がったことがないらしいからなかなかのものだ。古ぼけた階段を上るとそこは革命前夜のパリ16区の居酒屋のようだ(笑い)。学生、労働者、知識人、軍人、浪人、アジテーター・・・様々な主義主張の人々が闊達に激論を交わしたカフェの雰囲気プンプンである(笑い)。
しかし、ここならスタンド越の窓の外を眺めながら心開ける友とゆっくりと語り合うのも良い。目の前の駅の改札口からは様々な風体の人が流れ出てくる。それに、ここは新蝦夷共和国独立宣言の草案創りにはもってこいの隠れ家ではある(笑い)。だいたい、内緒事などは昔からソバ屋の二階と相場が決まっている。これが寿司や鰻ではちと都合が悪い、真剣に食ってしまい謀議どころではいからだ(笑い)。
今日は提灯をつけるから、ぜひ夜に来て欲しい・・・とのことで早速参上。しかし、本日はお盆休暇の前日だ。口角泡を飛ばし、天下国家を論ずる相手も、テーブルを叩き議論を吹っかける相手もいないので、ちと寂しいか。しかし、ここは妙に落着く場所だ。独り雰囲気を楽しんだ後、店を出た。振り返るとご亭主は明日の仕込みをしている、夜空を見上げると天上には月が浮かんでいた。
実は先日の早仕舞いは、墓参のために休んだとのことであった。不届きなどと言ってしまい、大変申し訳ない。墓参をまだ済ませず、飲んだくれている不忠不孝者の私になどに比べればご亭主は特段の功徳を積まれたわけである。
諸兄諸氏、謀反の企てなどなくても一度ブラリと訪ねてみると良い。ほんの少しの酒精でウサを晴らし、夢を語るのも良いではないか。白石は庶民の街だ。

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