なつかしい人にあった。ウベ・ワルター。ドイツ人(東ドイツ出身、後西ドイツに亡命)。
今、私の住んでいる町で映画の撮影が行われている。松平健さん主演「バルトの楽園」第一次世界大戦中、ドイツ人俘虜と地元の人の交流をテーマにした作品だ。
ウベさんはドイツ人兵士役として出演している。
昨夜、行きつけのバーに行くと撮影で来ているドイツ人(実はドイツ人ではなくアメリカ人やイギリス人も大勢いたようだ)でごった返していた。友人の一人が「ドイツ人で尺八を吹く人がいるよ。」と教えてくれた。
直感で「ウベ〜!」と店で叫んだ。
すると、びっくりして振り返った男、それがウベ・ワルターだ。
彼もとても驚いていた。まさか私のホームタウンとは知るよしもない。
ウベさんとの出会いは、ちょうど10年前.。TBSと毎日新聞の戦後50年企画で中国旧満州地方をバイクで移動しながらライブをするツアーだった。
参加者は中国残留孤児、韓国人、中国人、香港人、ドイツ人そして日本人。あの戦争に関係した人たちだ。
ウベさんは尺八奏者そしてライダー。私は取材スタッフとしての参加していた。
彼の印象はなんと言っても抜群の日本語力、日本文化の知識だ。中国ロケの間毎日早朝木刀で素振りをしていたのもよく憶えている。
それからよく怒ることだ。「なんでそんなことに腹立ててるの?」と思うことがよくあった。
ある朝木刀を振っている彼と話をしていたとき、「時々東ドイツの血が騒いで、感情をコントロール出来ないことがある」「共産社会の人はよく怒るんだ」と話してくれた。
日本に戻って彼を訪ねた。京都府美山町。山深いの静かな町だ。冬は豪雪で来る人も拒み、時に陸の孤島化とする。未だ茅葺きの民家も多く残っている。「これぞ里山」といった町だ。そこで日本人の奥さんと2人の男の子とかやぶき屋根の家で暮らしている。
彼はスタジオに迎入れてくれた。やっぱり茅葺きの民家を改造したようだ。でも音が相当漏れる。
「周りに人がいないし、車も通らないから平気だよ」
と笑いながらウベさんは答える。
自宅にいる彼はとても穏やかだった。気持ちを静めるためにこの町に来たのかもしれない。

記事は1996年 取材したものです。copyright kyoto bank

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