「D案を元に計画を進めてください」、と田村さんにメールしようとするときです。
もう一度、母に確認しました。
「ちゃんと図面を見た?本当にこれでいいの」と聞くと
「いいよ」とあっけない返事です。
嫌な予感がして、玄関から入ったところからの動線を説明しました。
案の定、きちんと理解していません。
キッチンが南に面していることを知らなかったのです。
それからが大問題。そんな家はおかしいと言うのです。
いろいろ良さを説明しましたが、古い生活習慣から抜け出せないようです。
南に換気扇とか下水のマンホールがあるのが嫌なようです。
私は南と東に面したリビングダイニングが気に入っています。
東側にも少し庭ができるので、部屋から木々を見たいという願いが叶います。
南東の角に畳コーナー、それに続いて南に面したダイニン、
その西側に南に面したキッチンを配置しました。
キッチンの位置を変えれば母の抵抗にも遭わずにすみます。
しかし、私の理想もなかなか捨てられません。
どうしても説得できない場合、強行に進めるか、私が折れるかです。
もし、私が折れる場合、キッチンを東南に持っていく方法です。
ここにきて、これほど抵抗に合うとは想像もしませんでした。
母が猛反対していることを田村さんにメールで伝えると、
さっそく、夜電話がありました。
「先日見学にいった”芝犬なっちゃんの家”にお母さんを連れてきませんか」
思いがけない提案でしたが、家主さんも快諾してくれたそうです。
母には直接田村さんから連絡してもらいました。
そのほうが、母もその気になると思ったからです。
ただし、私たち夫婦がすでに見に行っていること、
キッチンが南に面しているということは伏せておいてもらいました。
その週末、母と二人で出かけました。自宅から車で30分ほどのところです。
車を止め家を見るなり母は、すごい家だね、と言いました。
玄関口までのスロープが気に入ったようです。
それからは「いいね」の連続です。
リビングでお茶をいただきながら暫く雑談をしていました。
様子を見てキッチンを案内すると、母は意識が変わったようです。
こういう考え方もあるのだと、納得したようです。
田村さんから具体的に、自分の家の場合を踏まえて説明してもらいました。
私はすでに妥協案としてキッチンを南東にする考えを持っています。
しかし、母はこのまま南の中心の位置で大丈夫だと言いました。
あのときの口論がウソのようです。
頭では理解できなくとも、実際に目にしてその価値を認めたようです。
これから、D案に沿って打ち合わせを重ねます。
帰り際、田村さんの言葉が残りました。
「いい家になりますよ」
それを聞いて私も母も安心しました。