アメリカには国立公園のほかに、州立公園や郡立公園など、多種多様な自然公園がある。今日はその1つ、サンフランシスコの北に位置するマウント・タマルパイス州立公園

へ行った。というのも、この夏に米本土48州の最高峰、マウント・ホイットニーへ挑戦するつもりだからだ。今回の山行は春のトレーニングの一環。この後、4月、5月にキャンプ&ハイキング、6月にマウント・シャスタ登山、7月にヨセミテでの5泊のバックパック旅行とこなして身体を鍛え上げ、8月に数泊かけてマウント・ホイットニーへ挑戦するつもりだ。
同行したのは、サンフランシスコ空港近くの日本企業の営業所長を務めるKさん。
Kさんの夢はパシフィック・クレスト・トレイルやアパラチアトレイルなどを歩き通すことで、すごい大きな夢を持った尊敬できる人物。彼とは前述のマウント・シャスタやホイットニーへの登山を計画している。信頼できる人でないと、お互い命はあずけられない。
Kさんは先月から風邪を引いていたとのことで、病み上がりだったが、なかなかどうして彼の足取りは、カモシカのように早い。特に登りでは僕は付いていくのがやっと。もっとトレーニングしなくては、と反省した。
このマウント・タマルパイスは日本のガイドブックにはまったく出ていない。しかし頂上からの眺望は筆舌に尽くしがたいほど美しい。青い海と緑のカーペットを敷いたような丘陵、元気いっぱいに草木が芽吹いてきた周囲の山々などとのコントラストには、思わずため息が漏れる。ナパからバレホ、バークレー、オークランド、サンフランシスコ、ゴールデンゲート・ブリッジなど、ガイドブックに出ているベイエリアの各観光スポットが一望できるのが、逆にガイドブックにすら出ていない名所からとは皮肉だ。特にゴールデンゲート・ブリッジを挟んで対峙するサンフランシスコ湾と太平洋は、まるで絵葉書のよう。白いヨットが青い海面に浮かぶ静かなサンフランシスコ湾と、弓なりのビーチに打ち寄せる白い波が美しい太平洋とは、まさに静と動。瞬きするのも惜しいくらいの美しさに、息をするのも忘れてしまう。
マウント・タマルパイス州立公園は、トレイルが良く整備されておりビジターセンターもしっかりしている。下手な国立公園よりいいかもしれない。ミュア・ウッズ国定史跡と隣りあわせで、地図を見るとトレイルはミュア・ウッズとつながっている。
日本のガイドブックも、サンフランシスコばかりではなくこういった隠れた名所を掲載すればいいのに。なら自分たちでいつか国立公園のトレイル紹介に絞ったガイドブックが出せたらいいね、などと、Kさんと話していると夢がとめどなく膨らんでいく。こういう人と話をすると、本当に刺激を受け「なんかやらなくちゃ」という前向きな元気を分けてもらえるのでうれしい。
Kさんのことで大感心したことが1つ。きついトレイルを上り終え、駐車場へ向かうとき、道に誰かが捨てた空のペットボトルが落ちていた。疲れていた僕は一瞬拾おうかとも思ったが、腰をかがめるのが面倒だったのと、きっと公園管理係が明日にでも掃除するのでは、と変な理由を自分に言い聞かせ、ペットボトルを一瞥しただけで通り過ぎようとした。しかしKさんは僕が通り過ぎた後、おもむろにペットボトルを拾い上げ、黙って手に持って歩き出した。駐車場に到着後、ペットボトルを静かにゴミ箱に投げ入れ、黙々と笑顔でストレッチを始めたKさんを見て、疲れ果てた僕は顔から火が出るくらい恥ずかしかった。
結局、今日はトレイルも3本歩き、眺望を堪能した素晴らしい一日だった。またKさんといろんな夢を語り合い、気分的にも希望が広がった一日だった。しかし昨日はヨセミテ巡り、今日はタマルパイス巡りと疲れがたまったため、焼肉でも食べて帰ろうかと思い帰路、車の中からサンフランシスコ在住の友人に電話をかけたが、すでに夕飯を済ませてしまったとのこと。昼の残りのおにぎりをほおばって、家まで3時間のドライブに耐えた。

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