【ミトゥンの儀式 001】
「お会いできてうれしうございます、ヌナタ様」
驚いたことに、その女性は初対面なのに僕の名前を正しく発音した。
「やはりお血筋ですのね、誰に言われなくとも神人を目指しておいでになる」
僕の格好を見てそんな風に言った彼女自身も神人の装束を身に着けていた。
この町で係累のない者がまともに生きていく方法にはいく種類かある。
たとえば傭兵になっていくさ場からいくさ場を渡り歩いたり。女なら娼家に住み込んで働くのもいい、場合によっては男にも可能な生き方だ。が、たいていの方法は命を危険に晒すか、そうでなくとも自分以外の誰かに自分の生き死にを任せなければならない、そんなやり方ばかりだ。
そんな中、数少ない自分が自分の人生の主人になれる生き方、そういう生き方が神殿につかえる神人になることだ。
むろん神殿の中でも係累の影響は皆無ではない。けれど神聖期97年の改革以来、神人の地位は主としてその能力ではかられるようになった。聖都のティカン大神殿の威光をカナンの隅々に行き渡らせるべく、その尖兵たる神人には家柄ではない実際的な能力が必要とされていたのである。
おかげで、僕は命を的の暮らしをすることもなく、地方の神殿の屋根の下で日々を過ごすことができていたのだが……。
僕は改めて目の前の女性を見た。服装からして彼女も神殿につかえる身らしいのはわかる。が衣装自体は相当に古臭い。美貌に目がいって服装の古さにはなかなか気づかなかったのだ。
そう、彼女は美しかった。
つづく

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