ヤマタより愛を込めて

顔を青ざめさせる皆本に対して、出血させた当人の薫の方はごくあっけらかんとしたものだった。
「シーツ、洗っても落ちないかもしれないね」
「大丈夫なのか？　痛くないのか？」
「痛いって言ってるじゃん。まだずきずきしてるし……」
惨状に改めて慌てている皆本に薫が言い返す。
けれど薫の興味は自身の出血にはないようだった。

「それより……うわ、なんかすごいことになってる」
薫の股間は乾きかけた破瓜の血でひどい有り様になっていた。
赤く腫れた亀裂にも血のあとがこびりついている。
その中心からこぼれ出している皆本の精液にも血がマーブル状に混じっていた。
「う、これは……」
「あー、アレのときよりひどいかも」

「大丈夫か？」
「痛かった」
そう答えると、皆本は急におろおろとしはじめた。
「どうしよう……傷薬……とかそういうものじゃないのか、こういうのは……」
なんだかおかしくなって薫はくすくすと笑いだす。
「大丈夫だよ、大丈夫……痛たた」
「ほら痛いんじゃないか、痛み止めとか持ってきた方がいいか？」
「いいってば」

「あう」
つながっていた部分がじんじんと痛む。
放心状態ですっかり忘れていたのだ。
まだ下半身全体が痺れている感じがある。
皆本が身体をどけて、脚を閉じようとすると、内側からなにか流れ出す感触があった。
いまさっき皆本が放ったものだ。
同時にむっとする青臭い臭気。
これが精液の匂いなんだ、と分かった。

ふたりは荒い息のまま身体を重ねていた。
支える力を失った皆本の体重がのしかかる。
重い。
すべてを委ねられたようでうれしい気持ちもあったけれど、さすがに息苦しかった。
「み、皆本……」
少し遅れた反応で、皆本は薫の上から身体を起こした。
それまで挿入りっぱなしだった皆本のものがずるっと抜け落ちた。

「そうか。これ以上は、日本の警戒網に見つかるかもしれないな」
「おでかけに？」
「いや」
兵部は少し迷ってから小さく首を振った。
「やめておこう。いくら父親は嫌われる役どころとしても、今夜はさすがに無粋だ」
「はい？」
「真木、お前は……いや、いい」
「では私はこれで」
あとは静かな部屋。

「……ああ、真木」
少年はそこで初めて彼の存在に気づいたようだった。
実際には彼の祖父のそのまた父親でも通じる年齢。
だが、外見からはまったくそうは見えない。
妙に大人びた仕草をする少年だと思われるかも知れないが。
「船は、いま？」
兵部京介はソファに座ったまま聞いた。
「現在小笠原海域に入ったところです」