ヤマタより愛を込めて

「ごめん。今さらこんなことを言ってももう……」
「ちっ、ちがうのっ」
涙で上手く声が出ない。
「違うの、う、うれしいの……っ」
皆本が驚いた顔で自分の方を見ているのが恥ずかしい。
けれど嗚咽にのまれてまともに喋ることが難しい。
「うれしくて……涙止まらない……、好きだって……皆本に……」

「嘘。嘘……」
信じられない。
もう皆本の心は葵と紫穂のもとにあると思っていたのに。
「嘘じゃない。信じてもらえないかも知れないが、僕は……」
「皆本が……あたしのことを……好き……？　そんなこと……」
「好きだ」
今度こそきっぱりと皆本は口にした。
「好きだ薫」
「皆本ぉ……」
涙がこぼれる、止められない。

「あたしは皆本のことが……」
「僕だってそうだ」
「…………え」
「君にどう思われていても、やっぱり僕は君のことが……薫」
「み、皆本……だって……」
「わかってる。葵や紫穂のこと。だのに僕がこんなことを言うなんて、卑怯なことだと思う。それでも……君に伝えなきゃいけないと思ったんだ」
「皆本……」

「あたしね！」
皆本の言葉を薫は大きな声で遮った。
皆本の気持ちを聞いてしまう前に、自分の気持ちを伝えてしまいたかった。
たとえ皆本の気持ちが葵と紫穂のもとにあるとしても。
自分の心に嘘はつきたくない。
「あたしね、皆本のことが好き。葵と……紫穂とも恋人同士でも……あたしは……」
ああ、どうしよう涙がこぼれそうだ。

「皆本っ」
遙か下で、フェンスの落ちる音がした。
あまりの安堵に思わず念動が途切れそうになった。
慌てて姿勢を立て直し、同時に皆本の身体も念動でつかまえた。
再び屋上のコンクリの上に落ち着いたふたりはほっと息をついた。
「すまない。助かった……」
「ううん。いいの……いいの」
薫は首を振った。
「薫、僕は……」

「いやあああっ！」
薫の視界から皆本の姿が消え去る。
落ちた。
落ちちゃった！
「皆本ぉぉーーーーっ！」
同時に薫にはわかってしまっていた。
自分には最初から悩む資格がなかったことを。
薫の身体が音よりも速く飛び出す。
助けなければ。
宙を飛ぶ薫。
だが。
「や、やあ……」
腕一本で屋上からぶら下がった皆本が苦笑いした。

皆本はゆっくりと姿勢を入れ替えて、金網の上を屋上へ戻ろうとしている。
「危ないっ、落ちたら……っ」
「落ち着いて。僕は大丈夫だ。ほら、暴走も収まってきてる……」
確かに力の放出はだいぶ弱くなっていた。
皆本の手が屋上の端のコンクリにかかる。
だが、そこまで皆本の体重を支えていた金網の支柱が根本のコンクリもろとも引っこ抜けた。
「うわ……っ」