相手がウレイだとわかっても、私の悲鳴はしばらく止まらなかった。
「なんだっていうのよ。ったく」
ようやく悲鳴をおさえこむことに成功した涙目の私を、ウレイはうるさくてならないという顔で見下ろしている。
「いきなり叫んでびっくりするじゃないのよ」
「こ、声をかけるからびっくりして……」
「姿を見たら声くらいかけるわよ。だからってそんなに大声出すことある?」
「その……」
絵におびえていたとは言い出しづらい私の視線をウレイは見てとって首を傾げた。
「この絵を見てたの?まあ子供には刺激が強いかもねえ。だからって悲鳴まであげることは……あんたもしかしてこれが怖いの?」
「……」
答えられないでいる私と絵を見比べて、ウレイは目を丸くしている。
なにか感じるところがあるようだ。
「怖い、怖いねえ。なんだか新鮮だわ。この絵が怖いねえ。へえ」
ウレイは何度もへえを繰り返した。私はちょっとむっとした。
「あなたは怖くないのか?さむらいの豪胆さをお持ちなのですか?」
「あたしが?おさむらい?」
ウレイはけたけたと笑い出した。
「まあ子供だからねえ、しょうがないか」
「私は十分におとなです!」
「大人ならあの絵を見て怖がったりしないよ。女になってればね。お前まだ男は知らないんだろ?」
「……?」
ウレイの言っている意味がわからず私は答えを返せなかったが、それ自体が彼女の予想した答えであったようだ。
「まだ子供のあんたにはあの絵の意味が分からなくて当然だけど。……それにしても、怖いねえ……」
ウレイは再び感心した顔で絵を見てまた笑うのだった。
やがて笑顔が不意に消える。
「知ってたって知らなくたって、仕事はちゃんとこなさなくちゃいけないんだよ。それがあたしたちの仕事なんだからね」
と、そこへ新しい人物が現れた。
「ウレイ、今日はばかに早起きじゃないか」
(続く)

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