シェフの修行先の一つが
「ブノワトン」。
その名前を、ホームページやブログに書くのは
これが初めてです。
伊勢原という、都心から離れた町の
さらに駅からも遠い場所にありながら
全国のパン好きさんに
その名を知られた、名店でした。
店主の高橋さんが亡くなり
昨年、惜しまれつつ閉店して、
もう一年以上がたちますが、
今でも
「ブノワトンのご出身と聞いて来ました」
というお客様が、続いています。
ありがたいことですし、
シェフも店主も、大好きなお店でしたので、
嬉しいです。
隠していたわけではないので
取材などで尋ねられれば
ブノワトンの名前も出していたし
高橋さんも、ブノワトンの新聞や店頭で
薫々堂を宣伝してくださっていて
その恩恵は、かなり大きかったと思うのですが
あえて、こちらから宣伝しなかったのは
先輩がイチから築き上げてきたお店のカンバンを
安易に利用しては失礼だ、、
いつか、本当に薫々堂を気に入ってくださった人が
「ああ、あの○○の出身なのね!」(←ブノワトンや他のお店)
と思ってくださったら、
そのときは、本当に恩返しが出来ることになる・・・
というのが一つと。
そして、薫々堂は、「ブノワトン」ではない、ということがひとつ。
せっかく遠くから来てくださっても
「ブノワトン」を期待されていたとしたら
きっと、がっかりされるでしょう。
そもそも店主はブノワトンで働いたことは一度も無いですし
シェフも高橋さんではないですし・・・
本当に、全然似てもいない、と思うのです。
高橋さんが亡くなってから、
シェフが何回か、つぶやいたことがあります。
「もし俺が高橋さんと同じことをやったとしたら、高橋さんはうれしいのかな?」
いつもずいぶんたってから、
「やっぱり、そんなこと無いと思う」
「高橋さんは、オリジナリティーを大事にする人だったから」
確かに、それほど注目されたお店だったから
「ブノワトン風」なお店は、結構できたけど
本当にブノワトンみたいなお店は
他にはありません。
「高橋さんは、特に変わったことやろうと思っていないんだけど
自分の中から湧き出てくるものを形にしたら、
『変わっちゃってた』って感じなんだよね」
多分そうなんだと思います。
店主の頭の中には今も
薫々堂のオープン当初、
ご家族みんなで来てくださったときの、
嬉しそうな高橋さんのお顔が浮かんでいます。
「亀さん、お店かわいいね!パンうまそうじゃん!」
そして、道行く人に、
「ここのパン、おいしいですよ!」
と、どう見ても怪しい通行人を装ってくれたこと・・・。
思い出すと、今でも笑えて、そして泣けます。
(また続きます)

7