「それじゃ、ガセネタといくことかね」
問診に応えた私に、医師はそう言った。
ガセネタという言葉はこういうときに使うのだろうかと思った。
それより私の人間性を疑われたようで悲しい。
昨夜ひどく咳こんだ。1時間も続いたので胸が苦しい。
もう2週間くらい前からときどき症状がでている。
そんな症状がでるのは10年も20年も前からだ。
市販の咳止めを飲んでも利かず、医者に行ってもなかなか治らない。
3ヵ月くらい続いた年もあったような気がする。
毎年なのか、一年おきなのか、それともたまになのか、
よく覚えていないが、苦しい思いをしたことだけは確かだ。
今日はかかりつけの内科医ではなく、呼吸器科専門に診てもらいたいと思った。
そこでネットで探すと、割と近くにあった。
これで原因がはっきりわかる、と直ぐに出かけた。
病院の駐車場に車はなく、休診日かと思った。
待合室にはだれもいない。
直ぐに呼ばれて問診が始まった。
いつ頃からどれくらい続いているのか。
過去にさかのぼって聞かれた。
いろいろな角度から質問されると、つじつまの合わないことがでてくるようだ。
すかさず、医師は「ガスネタ」という言葉を発した。
「すみません」と謝らずにはいられなかった。
次に胸の触診。
聴診器を胸に当てられ「息を大きく吸って大きく吐いて」と言われる。
「ぜんぜん吐いていないじゃない。もっと大きく吐いて」
と医師は強い口調で言う。
何度か続けたが大きく吐くと言う動作ができない。
レントゲンを撮るときの感覚ではダメなのだ。
精一杯、大きく吐くよう努めた。
しかし、何度やってもうまく行かない。
「すみません」
またまた私は謝るしかなかった。
「こういう患者が多いんだよな。診察させてくらないんだから診断もできやしない」
医師はそう言った。
私のような息の吐き方しかできない人が多いということだ。
そういう人と多く接しているなら、どうすれば患者が大きく息が吐けるか、
適切なアドバイスを生み出せなかったのだろうか。
次に胸のレントゲンを撮り採血をして、再び診察室へ。
今度は手のひらサイズの器具を持ち、マウスピースをくわえる。
大きく息を吸い大きく吐く。
「少しは良くなったかな」
医師は私の息の吐き方をそう言った。
もっともっと大きく、と何度も試みる。
咳が出る。
「息を吐くと咳がでるか」
医師は独りごとのように言った。
レントゲンでは胸の異常はない。
「気管支炎か喘息か、判断がつかないな。
そういう場合は気管支炎の治療から初めていこう」
またまた、医師は私に説明するというより、自分自身に語るように言った。
5日分の薬を処方してもらい、次回は月曜日に行くことになっている。
そのとき血液検査の結果もわかる。
さて再診してもらうかどうか。