「これ、美味しいですか」
スーパーマーケットの特売品を指さして、老人はそう言いました。
私がパスタの麺二袋をカゴに入れたのを見ていたのでしょう。
「ええ、まあまあの味ですよ」
前にも一度食べたことがあったので、
安い割には美味しいですよ、という意味で答えました。
ところが、この老人。
この麺がどんなものか、知らなかったのです。
スパゲティという名前も知りませんでした。
もちろん作り方も。
しかし、人が美味しいというのを食べてみたいと言います。
そして自分のカゴに一袋入れました。
私は心配になって、
「作るのがちょっと面倒だから、やめましょうか」
と言うと、「そうかね」と残念そうに戻しました。
あとで思ったのですが、
レトルトのパスタソースを探してやればよかったかな。
年齢を聞くと90歳とのこと。
体の不自由なおばあさんに代わって食事の用意をしているとか。
いちじんさんを見て、「乃木大将みたいだね」と言い、
「あんた、どこの戦地へ行ったんだね」と続きました。
私は「この人は戦後生まれなんですよ」と笑いながら説明。
少し耳が遠いくらいで、いたって元気な老人。
もっと時間があれば、違う話もできたのに。。。
先を急ぎました。