「いや〜、お久しぶり」
暖簾をくぐると、マスターと奥さんはそう言いながら笑顔で迎えてくれました。
「怪我はどう?」
「もう良くなったんでしょう」
二人は立て続けにそう言いいました。
どうして膝を骨折したって知っているの?
「ええ、お陰さまで」
そう答えながら、前に来たとき、お酒を飲みながら話したことを思い出しました。
店の名前は「the常盤」
高崎公園の目の前にあり、
4人ほど座れるカウンターとテーブル席が2つだけの小さなお店です。
2年前だったかな?
夜桜見物にきて、どこかで飲んで行こうか、とふいに立ち寄った店です。
とても気さくなマスターと奥さんとの会話がすっかり気に入りました。
しかし、土日が定休日なので何度も足を運ぶことができません。
今日は今年の夏に行った以来です。
私の顔を見たとたん、私の体を気遣ってくれるなんて、うれしいじゃあないですか。
お酒が入り、音楽の話がしばらく続いていたときです。
マスターは、もそもそしながら、こんなコンサートはどう?とチケットを差し出してくれました。
見ると学生の吹奏楽部の演奏会で、マスターの知人の息子さんが出演するそうです。
「いやだ、明日じゃない。急な話ね」
だから、行けそうもないと思いました。
チケットをよく読むと、友人の娘さんが通っている高専です。
まして彼女は吹奏楽部でフルートを吹いています。
友人に携帯してみました。
「もしかして、明日、なっちゃん、コンサートにでるの?」
「そうだけど、どうして知っているの」
少し酔いが回っていたので、よくは説明できません。
それでも、明日、コンサートを聴きに行く約束だけは伝わったようです。
「遠いのに悪いわね」
「前から、一度、聴きに行きたいって言っていたはずよ・・・」
友人は、学生の演奏なんてたいしたことないから、悪くて、と遠慮していたのす。
「すごい縁(えにし)だよね」
マスターは言いました。
こんな偶然があるなんて。すごいです。
「明日はお店があるから行けないんですよ」
「じゃあ、マスターの分まで聴いてきますね」
そんな会話をしてお店を後にしました。