以前、一度観てストーリィもおおまかに判っていたので、今回はおもにディテールに注目して観た。その結果判ったのは、「北朝鮮第八部隊パク・ムヨン率いる秘密部隊」が実は、そもそも北朝鮮軍の正規部隊ではないどころか、「北」政府の方針にすら従わない自由なテロ集団であった、ということである。したがってパクの台詞には、南北分断による「北」側の生活の悲惨さをことさら強調するものが多い。パクの真の狙いは、再び朝鮮戦争を巻き起こし、北の政府を打倒して(いま戦争になれば、北に1%の勝ち目もないことくらい、職業軍人なら百も承知だろう)南北統一を図ることであり、そのための発火点として、北の政府高官も訪れているサッカーの親善試合という舞台が必要だったのだ。
こうしたポリティカル・フィクションとしての要素は、現実の分裂国家である韓国にとってリアリティのあるものだったのだろうが、その生々しさから目をそらすためだろう、映画はむしろメロドラマとしての構図を前面に出して進行していく。主人公の情報部員ユ・ジュンウォン(ハン・ソッキュ=声を当てていたのが小山力也だったので、アクションシーンではどうしてもジャック・バウアーの顔が浮かんで仕方なかった^^;)とその恋人の熱帯魚店店員であるイ・ミョンヒョン(キム・ユンジン)との悲恋もの、というパターンだが、最初観たときの印象より二人のシーンは意外に少なく、激しいアクションシーンとのうまい対比が、そうした印象を持たせたのだろう。
なにしろ徴兵制が存在するお国柄なので、さすがに銃器の取り扱いはハリウッドをもしのぐリアリティがある。もちろん、たとえば銃を持った犯人をアサルトライフルを構えた特殊部隊がぐるっと取り囲むような、あり得ないシーン(この距離で発砲したら仲間に当たってしまう)もあることはあるが、これはおそらくそうした絵が欲しい監督の意図により、敢えてリアリティを犠牲にして作ったシチュエーションであろう。とにかく、弾丸を撃ち尽くしたあとのマガジン交換など、ちょっとした描写にも銃器慣れしていることが見てとれた。
以下ネタバレあり、まだ観てない人は読まないように
お話のキーになる、CTXなる液体爆薬の設定がちょっとお子ちゃまっぽく、ご都合臭がぷんぷん匂ったあたりが物語のリアリティを大きくスポイルしてしまう要因だったのだが、そのおかげでヒロイン、イ・ミョンヒョンが実は凄腕の女テロリスト、イ・バンヒであったという、これまたかなりお子ちゃまっぽい設定があまり目立たなかったのかも知れない。ま、たいていの人は、見始めてしばらくすれば判っちゃうのだろうが(それにしても、生きてる魚にあんな盗聴器を仕込んだら、すぐ死んでしまってものの役には立たないと思うし、もし生きていたとしても、水中では音声がうまく伝わりづらいうえに、電波も減衰してしまうので、相当強力な出力が必要だ。そんな盗聴器では、当然バグチェックにひっかかってしまいそうだが^^;)
最近そこそこ頑張ってはいるが、各方面に目配りし、「ヒットの法則」をひとつずつ潰しながら作っているかのような日本映画にはない異様な迫力が本編にはあった。もちろん、分裂国家という国情もそこにはあるのだろうが、それよりむしろ、若い映画人の「こんな映画を作りたい」という情念みたいなものの方が勝っていたような気がしてならない。・・・
★★★

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