「十三人の刺客/三池崇史;2010年劇場公開作品」
映画
観始めて最初に思ったのは、いくらなんでも暗すぎるだろ、ということ。確かに当時の照明器具といえば行灯くらいしかなく、その照度は現在の電化製品の数十、数百分の一程度だろうが、人間の目には月明かりでも、もののディテールを見分ける程度の能力はある。少なくとも行灯はそれよりは明るいだろうから、あれほど部屋が溶暗してしまうことはないのではなかろうか。もちろん、あの暗さは映画的表現でもあったのだろうが、観客にストレスを与えるようでは逆効果だろう。すでに半世紀近く昔、キューブリックは「
バリー・リンドン」を撮影するために蝋燭一本でもシャープな映像が撮れるレンズを開発した。そこまでする必要はないだろうが、現在のテクノロジーなら監督の意図を満足させながら、もう少し見やすい絵が撮れたのではなかろうか。
さて、物語の筋立てはきわめて単純。悪逆非道な権力者を誅殺するヒーローたちの活躍を描く、時代劇としてはしごくまっとうな話である。こうした物語の場合キモとなるのは、誅殺されるべき人物の鬼畜ぶりだが、松平斉韶に扮したゴローちゃん(稲垣吾郎)は十分期待にこたえる熱演で、本編の成功の大きな部分を支えていたと思う。
刺客として登場するのは、老中、土井大炊頭利位(平幹二朗)の命を受け、斉韶暗殺部隊を組織する島田新左衛門(役所広司)とその甥、島田新六郎(山田孝之)など12人、それに加えて迷った山道で偶然助けた山男の小弥太(伊勢谷友介)の13人が斉韶一行を襲うことになる。作戦開始の檄で新左衛門が言い放ったとおり、かれらは徹頭徹尾「使い捨て」にされ、キャラクター描写は最小限にとどめられていた。終盤、すばらしい殺陣を見せてくれた倉永左平太役の松方弘樹など、かわいそうなくらいであった。唯一、行きがかり上仲間に加わった小弥太だけはやや多かった(カマキリを食べるシーンなど作り物がバレバレでちょっと興ざめ)が、これはやむをえないか。しかし、庄屋の三州屋(岸部一徳)との顛末はやりすぎかも^^;
見せ場は言うまでもなく襲撃シーンで、さまざまな作品から拝借したと思われる「小細工」のアイデアが面白い(火を付けられた牛が暴走するシーンなど、「
マーズ・アタック」が元ネタ?)が、それだけで敵を全滅させてしまっては話にならないので、後半はこれでもかというばかりのチャンバラを見せてくれる。ちょっと残念だったのは、前半の残虐シーンが特殊メイクを駆使した結構リアルなものだったのに、殺陣は従来の時代劇とさほど変わらない演出だったこと。たけし版「
座頭市」までとはいわないが、切られたら血が噴き出すくらいのリアリティは必要だったのではないか。これがなかったためか、13対300という数の対立がどうしてもスポーツのように見えてしまい、命のやり取り、という切実感がもうひとつ不足していたように感じられた。ここがもっと充実していたら、
★五つ付けてやってもいいと思ったのだが。
以下ネタバレあり、まだ観てない人は読まないように
個人的に笑っちゃったのは、斉韶が放った小刀を首に受け絶命したと思われた小弥太が、すべてが終わった後飄々と現れたことで、いくら「熊にくらべりゃ」たいしたことのない人間の武器といえども、急所を刺し貫かれまったく無事ということはありえないだろう。まあ、こういうあたりがこの物語の本質的な部分なのかもしれないが。・・・
★★★★

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