「剱岳 点の記/木村大作;2008年劇場公開作品」
映画
長年名監督たちのキャメラマンを勤めた木村大作が、齢69歳にして初監督をつとめた作品ということだが、なるほど、いかにも「往年の名キャメラマンが撮った」という触れ込みがふさわしい作品となった。もちろん、悪い意味でである。
確かに、CGをいっさい使わず実写のみで山の自然を表現しきった画面は美しいが(測量隊が音を立てたり落石があったりするたびに、ライチョウやカモシカの画像が挿入される素人っぽさには閉口^^;)監督のそのこだわりがもうちょっと演技者に向けられなかったものか。主演の浅野忠信と香川照之はさすがの好演だったが、脇を固める面々の使い方はとてもプロとは思えない。リアリティのまるで感じられない夏八木勲の修験者、西洋人の目から見たゲイシャみたいな物腰の宮崎あおい、軍人への偏見に満ち満ちた軍部のステレオタイプぶりなど、人物描写が自然の映像にまったく太刀打ちできていない薄っぺらさのだ。結局のところ、この監督にとって映画とは美しい絵の連続であればいいのであって、その「入れ物」に何を封入するのかはどうでもいいことだったのかもしれない。もし少しでもそういうことを意識していたら、ライバルとなる日本山岳会の一行(仲村トオル、小市慢太郎ら)はもうちょっと違った描き方になったと思うからだ。
淡々としすぎた演出にも疑問が残った。文芸作品の映画化なので、サスペンスを強調するような演出は避けたかったのかもしれないが、それにしても、あまりに盛り上がらなさすぎる^^; 主人公ご一行は立山山系をぐるぐる測量して回り、肝心の剱岳へのアタックは映画の終盤、ほんの20分程度でごくあっさりと描かれるだけ。具体的には、ただ行列を組んで雪渓を淡々と上っていくだけなのだ(修験者の言っていた「雪を背負って登り、雪を背負って降りよ」がこういうことだったとは^^;)しかも、画面構成に工夫が足りないため剱岳の急峻さが表現し切れておらず、過去多くの登山家が登頂に失敗したり、命を落としたりした難攻不落の山の険しさが、全くといっていいほど伝わってこなかった。
雪渓を登り切った所で、香川演じる案内人・長次郎が初登頂の栄誉を柴崎(浅野忠信)に譲ろうとして断られるクサ過ぎる芝居のあと、画面は突然ストップモーションとなり、次のシーンではすでに一行は山頂にいるという展開には、正直空いた口が塞がらなかった。一体どういう了見で登山をテーマにした映画から肝心の初登頂シーンを省略したのか、監督に小一時間問いただしたいところだ(まあ、テレビ観賞だから我慢するが^^;)・・・
★★

0