「アバター/ジェイムズ・キャメロン;2009年アメリカ映画」
映画
たびたび使って恐縮だが、「SFは絵である」という名言を、本編くらい雄弁に物語る作品は、歴史上これまでなかった。とにかくひとコマひとコマ、すべての一瞬がSFである。まさに、少年の頃幾多の名作SFを読み、空想したビジュアルがそのまま眼前に展開しているのだ。このビジュアルだけでも
★★★★★決定である。このような作品を観ることのできる幸せを与えてくれた監督/脚本のジェイムズ・キャメロンには、どれほど感謝の意を表しても、多すぎることはないだろう。
地球と環境の異なる異星に、自らの肉体ではなく身代わりのガジェットをリモート・コントロールして侵入する、というアイデアそのものはそれほど新しいものではなく、また、地球人側が侵略者となり、異星の資源を収奪する、という設定の話も過去にはあった。そういう意味では画期的な映画とは言えないかもしれないが、そうしたやや陳腐化した設定であっても、架空の世界をここまで説得力溢れる描写力で描かれると、有無を言わさず納得させられてしまう。もともとキャメロンは力技系の映画作家ではあったが、異形の世界にここまでの説得力を与えるパワーにはただただひれ伏すばかりだ。
本編が話題になったのは、本格的に導入された3D映像というテクノロジー面でのブレイクスルーがあったからだが、残念ながら今回の鑑賞はDVDなので、その効果について確かめることは出来なかった。ただ、全体的に高さや奥行きを感じさせる構図の場面が多かったので、これに立体感を与えられたなら、確かに演出効果は倍増されたと思う。しかし、問題はあいかわらず専用眼鏡を必要とすることで、もともと眼鏡をかけている人にとってはかなりわずらわしいシロモノだったらしい。裸眼3Dについては現在いろいろ実験はされているようだが、まだ実用化の目処は立っていないようだ。
もちろん、映画そのものの本質は3Dであろうが2Dであろうが変わることはない。たとえDVDでの鑑賞であっても、その魅力はじゅうぶん伝わってきたと思う。むしろ、映像が若干暗くなってしまう専用眼鏡をかけずに済んだ分、惑星パンドラの色鮮やかな風景を100%楽しむことができた、ともいえそうだ。
本編には、3D技術以外にもさまざまな新テクノロジーが使われている。それが俳優の動きのみならず、表情の動きそのものまでCGに移し取ってしまう「エモーション・キャプチャー」技術で、これにより従来の大根演技ばかり目立ってしまったCGキャラクターに、初めて実写映画を髣髴させる表情の演技力を付け加えることができた。キャラクターに感情移入できるかどうかは、映画の成功を左右する大事な要素だが、ほぼフルCG映画に近い作品を撮るにあたって、まずこんな技術を開発したキャメロンという男、やっぱり只者ではなかった。
なにしろ単純な筋立ての映画なので、キャラクターの設定にも複雑さはほとんどなく、善玉、悪玉の区別は単純すぎるくらいだ。たとえば地球人側には善玉の科学者たちと悪玉の会社関係者およびその傭兵にくっきり分かれ、自らの行為に疑問を抱く人間は出てこないし、パンドラの住民ナヴィ族の側にも、あまり複雑な権力構造は見られない。主人公ジェイクが地球側のスパイとしてナヴィ族の内部に入りながら、やがてナヴィ族の側に立って戦うようになるプロセスもあっけらかんとして、そこにはほとんど何の葛藤も見られなかった。まあ、この辺の描写を細かくしてしまうと、ただでさえ長い映画(上映時間2時間40分以上!!)がさらに長くなり、前後編にしなければ上映不能になりそうだが^^;
自分たちが侵略者として描かれることについて、予想通り保守層からは批判の声も出ているようだが、異民族との接触を描く話では「
ダンス・ウィズ・ウルブス」を始めとして、こんな描き方をするものがいまや主流であり、いまさら「アメリカの正義」を主張するような映画は撮れないのであろう。
ところで、惑星パンドラの風景、たとえば強烈な磁力によって巨岩が空中に浮いているハレルヤ・マウンテンや、ストーン・アーチなどのイメージが、イギリスのイラストレーター、ロジャー・ディーン(プログレ系ロックバンド、イエスのジャケットなどで有名)の作品と酷似していたことは本編鑑賞時から気づいていたが、ネット上でもやはり話題になっているようだ。当初はディーンがスタッフに加わっていたのかと思ったくらいだが、まったく無関係だということだ。作品の瑕疵になるとまでは言わないが、誰の目にも明らかなくらい似ているので、後発となるアバター側になんらかの配慮が必要だったのではなかろうか。
以下ネタバレあり、まだ観てない人は読まないように
最後に、ちょっとした疑問とイチャモンなど^^;
映画を観て気になったのは、人類が戦争を仕掛けてまで手に入れようとしたレアメタル「アンオブタニウム」についてのこと。ネーミングは英語のobtain(「手に入れる」「獲得する」といった意味)の否定形に-iumを付けて物質名(きわめて手に入りにくいもの)としたもので、そのもの自体の性質を説明するものではない。映画本編内での説明だと、常温超伝導と関連がありそうだが、その強烈な磁力のため、巨大な岩塊をも空中に浮かせるパワーがあることを、ハレルヤ・マウンテンの奇景が表現しているようだ。映画では、そのアンオブタニウムの鉱床がナヴィ族の居住地の真下にあるという設定で、それを採掘するため人類側は彼らの強制移住を計りたいわけだが、映画を観た限りでは、むしろハレルヤ・マウンテン近辺の方がパワーが強烈に現れており(巨岩が浮いていたり、電波障害が起きたり)鉱床はむしろそっちにあるのでは、と思える。
また、その電波障害にも関連するが、アバターを操縦するためのリンクもおそらく電波を利用しているはずであり、アクティブ・ホーミングミサイルの使用に障害が出るほどなのに、なぜアバターとのリンクに悪影響を及ぼさないのか、というのもちょっとした疑問であった(少なくとも映画本編の中に、そのような描写はいっさいなかった)ガンダムに登場した「サイコミュ」のような電波障害に影響を受けないテクノロジーを「発明」しているというならともかく、そんな設定もなかったようなので、結局謎は謎のまま残されてしまった。・・・
★★★★★

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