ほとんどの東宝特撮映画はリアルタイムで観ていた僕だが、この作品だけは観ていなかった。理由はよくわからないが、いつも映画館に連れて行ってくれた父にとって、あまり魅力的ではない怪獣だったのかもしれない。ほとんど例外なく着ぐるみであった東宝怪獣の中にあって(あのモスラでさえ、初代の幼虫の中には人間が何人も入って操演した)本編に登場するドゴラだけは異質で、人型とは程遠い形状をしていた。それは言ってみれば巨大なクラゲかヒドラのような形で、中に人間が入る余裕も必然性もなかったのだ。
ドゴラの造形には当時開発されたばかりだったソフトビニールが用いられ、強度不足を補うために水槽の中に沈め、水中で水圧をかけて操演したという。しかし、触手で橋脚にからみつくような複雑な動きは無理で、結局そうしたシーンはアニメーションで表現されていた。
お話は、ダイヤモンド強盗団と炭素を主食とするドゴラの食性とを無理やりに関連付けた荒唐無稽なもので、夏木陽介演じる警視庁外事課の駒井刑事と、ダン・ユマ演じる保険調査員マークが活躍する、亜流007ものっぽい雰囲気の珍品。全体的にはちょっとコメディ味も加味した作りになっているのだが、裏切り者はあっさり射殺してしまったりして、やや不調和な感じがした。
ドゴラの設定は炭素、特にダイヤモンドを好み、それを空中に吸引して食べるのだが、そのときに辺りの重力を相殺してしまう、という副作用もあるらしい。冒頭、酔っ払いのおじさんが空中浮揚したり、強盗団の体が浮いたりしたのだが、話が進むと何故かそういうシーンはなくなり、ひたすら石炭を吸い上げるシーンばかり強調されるようになる。
ドゴラの全体像が見られるのは中盤までで、自衛隊の攻撃により細胞分裂してからは、ただ豆電球が仕込まれたガラス状の物質がたくさん吊られているだけ、という情けない状態になってしまう。ドゴラを思うように操演できなかったという事情もあるのだろうが、とても物語のクライマックスを支える存在にはなりえなかった。それでか、苦肉の策としてダイヤモンド強盗団との死闘をクライマックスに持ってきてはいたのだが、これまたリアリティとは程遠い展開であったため、結果的に消化不良のまま終わってしまった失敗作という印象は否めない。
今のようにCGという魔法のツールが存在したら、ずいぶん違った話になっただろうと思うと、この種の話にテクノロジーの進化は欠かせないものなのだ、という当たり前の事実を今更のように思い知らされる気分だ。・・・
★★

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