三国志演義前半の山場となる「赤壁の戦い」を、国家的スケールの予算と人員を費やし、アクション演出では定評のあるジョン・ウーを監督に招いて撮影された超大作。本来は一本の作品として撮影されたものの、全編で5時間にも及ぶ長さのため、前後編に分けて公開された。
今回は、当初の意図に沿って前後編を一気に観たのだが、緩急のある巧みな演出のおかげでさほど退屈することもなく、お約束の居眠りとも無縁に鑑賞することができた。中国、香港、日本、台湾それぞれの国の俳優たちも、映像の中で浮くこともなく、それぞれのキャラクターになりきっていたのはさすが。当初は曹操にチョウ・ユンファが予定されていたそうだが、もしそうなっていたらかなりハリウッド寄りの印象になっていたかも。
意外に大活躍していた中村獅童は当初、三国志中の人物であった甘寧のはずだったのだが、あまりにスーパーマン的なキャラクターになってしまったので、甘興という架空の人物として再設定されたとか^^;
全体に動的な演出の中で、ひとり静的な部分を受け持っていた諸葛孔明(金城武)に、監督ジョン・ウーはひときわ思い入れを込めていたようで、映像作家としての彼のトレードマークであった白い鳩を孔明に託していた。
この種の映画としては、ケチをつける部分はほとんどないのだが、唯一気になったのが要塞内の位置関係の描写。赤壁の対岸に作られた曹操(チャン・フォンイー)軍の陣地内部の位置関係がほとんどわからない。だから、水軍を撃滅した後、話が地上戦に移ると全体的な印象が混乱してしまった。援軍として再登場した劉備(ヨウ・ヨン)軍がどの方向から来たのかもよくわからなかったし、肝心の曹操の居場所がどこにあるのかも定かでないので、囚われていた小喬(リン・チーリン)を捜索するはずの周瑜(トニー・レオン)たちの行動もあてずっぽうに見えてしまった。せっかく孫尚香(ヴィッキー・チャオ)が敵陣の地図を描いて体に巻いて帰ってきたのだから、もう少しそれを生かした演出をすればよかったと思う。
全体的にハリウッド臭の強い、いかにもアメリカ帰りの監督が撮った映画という印象の作品になってしまったが、それもたぶん世界市場を意識した戦略なのだろう。とはいえ、同じ題材をチェン・カイコーやチャン・イーモウならどう料理したのか、ちょっと気になった。・・・
★★★★☆

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