「女地獄」というと、なにか日活ロマンポルノよりさらに昔のエログロナンセンスな代物を連想させるが、実際にはそれほどエロは多くなく(もちろん多少はある^^;)どちらかというとお家騒動絡みの男くさい物語。なにしろ、狂四郎を討つために雇われた浪人者が二人、それも田村高廣と伊藤雄之助という豪華キャストで登場するのだから。
密書を届けるため速馬を走らせていた武士は、腕の立つ浪人者、成瀬辰馬(田村高廣)に切り捨てられるが、そのとき奪われた密書は実は偽物で、たまたま通りかかった狂四郎(市川雷蔵)がいまわの際の武士から託された手絡にこそ、密書の内容がしたためられていたのだ。そうとは知らぬ狂四郎は、その手絡を追いはぎから救った角兵獅子の姉弟に与えるのだが、そのことが元でこの姉弟には凶運が降りかかってしまうことになる…。
とにかく一時間半足らずの上映時間内に物語のすべての要素を放り込み、なおかつ観客サービスの「女地獄」ネタも付け足さなければならないのだから、脚本家はそうとう苦労したのだろう。その結果、特に成瀬に至っては、それはないだろうと思わず口走ってしまいそうなほど不自然な人物設定となっている。また、そうしたキャラクターに説得力を与えるためだろう、成瀬も野々宮(伊藤雄之助)も俳優本人の雰囲気をそのまま流用したような役作りで、これがプログラムピクチャーの限界なのだろうが、もうちょっと何とかならなかったのか、という気はする。
とはいえ、以前観た二作品ほど筋立てに無理はなく、相対する二つの勢力に割って入った風来坊が彼らを共倒れさせてしまう、という黒澤の「用心棒」的なシノプシスを、それなりにそつなく消化していた。それだけに、コントみたいな「女地獄」ネタが場違いな雰囲気で、かえって作品のリアリティを削ってしまっていた気がする。エロいシーンが不要だと言っているわけではなく、もうちょっと「浮いて」ない作り方はできなかったものかな、と思うのだ。・・・
★★★☆

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