ロバート・J・ソウヤーのSF小説を原作にしたテレビシリーズ。ある日、全世界のすべての人が同時に意識を失い、しかも半年後の未来を二分間だけ見てしまうという不可解な事件が起きる。意識を失った瞬間、車の運転をしていた人や飛行機に乗っていた人などの多くが犠牲となり、全世界で数千万の犠牲者が出る大惨事となった。
FBI捜査官マーク・ベンフォード(ジョセフ・ファインズ)は相棒のディミトリ(ジョン・チョー)とともに事件の捜査を始める。その手がかりになるのは、自分自身の見た半年後の捜査資料だった。一方、相棒のディミトリには一抹の不安があった。彼は他の人物と異なり、ブラックアウト(意識喪失事件は後にそう呼ばれるようになった)の時にいかなる未来も見ていなかった。未来を見ていないということは、そのとき自分は存在していない、つまりすでに死んでいるということではないのか・・・?
見所はやはり、第一話で描かれるブラックアウトの映像化であろう。そのスケールの大きさはテレビドラマの枠を超えており、実際制作費も大作映画並みだったという。ブラックアウトが自然現象ではなく、人為的に引き起こされた「事件」であるということは比較的早い段階で明かされる。もちろん、半年後の未来でその件について捜査している自分自身をマーク本人が見ているからだ。やがて彼は原子物理学者の絡む量子論的な真相に迫っていくことになるのだが、残念ながら本編は第一シーズンのみで打ち切られてしまったために、粒子加速器とブラックアウト、さらに未来を垣間見ることについての関連をほとんど語ることなく終ってしまった。
以前、「
マイノリティ・レポート」のところでもちょっと触れたのだが、本格SFをマニア向けではなく一般向けのメディアで発表することの難しさを、今回の打ち切り事件はまたしても証明することになってしまったようだ。要するに、一般の視聴者は量子論とタイムトラベル(意識だけ未来に飛んでいる)との関連を理屈で述べることなどにはほとんど興味がなく、要するに事件の因果関係さえ判ればいいのだ。しかし、残念ながらそれはSF本来の面白さではない。
SFずれしたマニアと一般視聴者の、いずれをも満足させるシナリオが書ければそれに越したことはないのだが、営利企業に過ぎないテレビ局としては、より多くの視聴者に向けて番組を作らざるを得ず、結果としてSFの部分を置き去りにしたサスペンスドラマに軌道修正しつつ製作を続けた。SF的なガジェット(粒子加速器、タキオン、QEDなどなど)についてもほとんどその意味に触れることはなく、RPGのアイテム程度の意味しか持たせていなかった。
本来は5シーズンかけて事件の全貌を明らかにする予定だったようで、それを1シーズンのみで打ち切ってしまったものだから、積み残した謎は多い。というか、ほとんどの謎は解明されずそのままの形で放置された。事件を起こした組織の正体は、その目的は一体なにか、アフガニスタン編に登場する傭兵会社ジェリコは事件にどう関わってくるのか、そして冒頭でも触れた、SF的な真相究明もほとんどされずじまいである。打ち切られてもやむをえない愚作、というならそれも仕方ないが、少なくとも打ち切りが決定する前に製作されたと思われる前半部分の出来はなかなかだっただけに、残念な話である。・・・
★★★

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