第二次世界大戦を扱った航空戦映画は枚挙にいとまがないが、第一次大戦となると本格的なものはかなり少なく、せいぜい「レッド・バロン」「ブルー・マックス」そして「スカイエース」が挙げられる程度。そうしたものの中で本編は最新の作品であり、完成度もなかなかの傑作である。
20世紀初頭、父の遺産の大牧場を銀行に差し押さえられ、行くあてのなくなった若者ローリングス(ジェームズ・フランコ)は、偶然観たニュース映画でフランス空軍内に結成されたアメリカ義勇兵部隊、ラファイエット戦闘機隊の存在を知り、志願するために大西洋を渡る。しかし、彼はまだ一度も飛行機に触れたことすらなかった・・・。
映画はローリングス同様、飛ぶことにまったく素人の新兵たちを一人前の飛行士に育てるところから始まる。下手をすると退屈な映画になってしまうところだが、そのあたりは巧みなキャラクター描写(いちおうローリングスが主人公ではあるが、同期の他のパイロットたちの人物描写もなかなか的確で、一種の群像劇としても観られるような話に仕上がっていた)やエピソードの積み重ね(部隊のマスコットが本物のライオンだったりするとか^^;)でそつなくこなし、初陣から次第に歴戦の勇士になるまでを澱みなく描いている。
もちろん、戦争の現実は殺し合いであり、出撃回数が増えるとともに、戦友が櫛の歯の欠けるように戦死していく。また、敵にも騎士道精神に溢れた者もいれば、勝利のためには手段を選ばぬ者もいる。このあたり、やや映画的な誇張は感じたものの、どんどんシステマティックになっていく後の戦争に比べれば、まだまだ戦闘に「個性」を持ち込めた時代だったのだ。
登場する俳優はローリングス役のジェームズ・フランコ(
スパイダーマンのハリー役でブレイク)のほかはほとんど無名の若手ばかりだったが、隊長セノール大佐役でジャン・レノが出演し、人間味溢れるキャラクターをさすがの存在感で演じていた。
登場する第一次大戦機はもちろんレプリカだが、飛行可能な機体の実写映像とCGとを巧みに合成しており、ほとんど不自然な感じがしなかったのは立派だ。初出撃の朝、水鳥たちの編隊を蹴散らしてラファイエット編隊が飛んでいく様は、まるで一幅の絵のように詩情溢れるシーンだった。
全体に非常に手堅くオーソドックスな作品で(途中に挿入されるローリングスの恋のエピソードなど、さすがに第一次大戦当時だけのことはある古風さである)かなり満足度は高かったのだが、唯一の問題にして非常に気になったのがドイツ機のカラーリングであった。なんと、登場するフォッカー三葉機のほとんどが、レッドバロンよろしく真っ赤なのである。赤くないのは主人公の宿敵となる「黒い鷹」(その名の通り、国籍マーク以外全体が真っ黒に塗られていた)くらいのもので、いくらなんでもこれは不自然。おそらく、画面上でもつれ合った時にも敵味方がすぐ判るように工夫したつもりなのだろうが、正直言って「
パールハーバー」のゼロ戦が緑色だった以上に変だった。残念ながら、これだけで
★ひとつ分の評価が落ちてしまうくらいに。
ところで、当時のフランス空軍にはアメリカからの義勇兵以外に、なんと日本人飛行士も在籍していた事実をご存知だろうか。その名をバロン滋野といい、ドイツ機6機を撃墜した功によりレジオン・ドヌール勲章を授与されている。昔、評伝を読んだことがあるが、そのまま映画化されてもおかしくないくらい面白い人生だった。日本が全体的に落ち込んでしまっている今のような時代にこそ、こういう人の存在はもっと広く知れ渡るべきだと思うのだが。・・・
★★★★

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