この、細田守という監督、さまざまな題材を総花主義的に描き、観客を喜ばせる手腕はなかなか確かなものを持っていると思う。これまでも書いてきたことだが、映画にいちばん必要なのは何より「ストーリィを語りきるエネルギー」であり、たとえさまざまな矛盾を内包していたり、いつの間にかテーマがずれてしまっていたとしても、観ている間観客がそれを気にしなければ、映画は成功なのだ。
しかしそれはあくまで「一般」の方々が相手の場合。僕みたいにSFズレした人間にとって本編は、残念ながら鑑賞している間その欠陥が気になって仕方がないタイプの作品であった。
まずすごく気になったのは、冒頭から登場しているOZという仮想空間の設定である。システムの保守を高校生のアルバイトに任せているというセキュリティ管理がまずヤバすぎるし、案の定ハッカー(実際には暴走した人工知能プログラムなのだが)にシステムを乗っ取られてしまうわけだが、肝心のOZを管理する側の人間がまったく登場しないため、復旧云々の台詞が非常に空しく響く。まあ、現実に某巨大SNSがダウンしたときにも、復旧作業を行っている人の顔は全然見えなかったので、これはこれでリアルな表現なのかもしれないが^^;
また、主人公健二(神木隆之介)の設定もちょっとご都合主義。数学オリンピックに出場できるほどの才能を持つ天才児なのだが、突然メールで送られてきた暗号を解いてしまったため、OZのシステムを乗っ取った張本人としてマスコミに報じられてしまう。しかし後に、彼以外に55人もの人間が暗号を解いており、しかも健二本人はタイプミスで解読に失敗していたことがわかる。ではなぜ彼が犯人として報じられたのか、その謎について映画はいっさい語ってくれない。そもそも、その暗号がいかなるものか、健二がどうやって解いているのかすらひとことも説明がない。せめてその片鱗だけでも示してくれれば、健二の数学的才能が具体的に示せるのだが、ただヒロイン夏希(桜庭ななみ)の生年月日から曜日を当ててみせた(Zellerの公式)程度では、あまりに物足りない^^;
夏希がなぜ健二を選び、強引に田舎の祖母・栄(富司純子)に引き合わせたのかもよくわからない。いちおう理由みたいなものは述べられるが、あまり説得力がないし、そもそも夏希は叔父の侘助(斎藤歩)に思いを寄せていたのであって、話の発端では下級生である健二など眼中になかったはずなのだ。それが何でラストにはああいう関係になってしまうのか、話の流れにごまかされてしまうが、考えてみるとあまり必然性がない。
仮想空間内部での闘争を、判りやすくクンフーの試合で表現したのは
マトリックスだが、本編もそれを踏襲しているものの、ごく単純にバーチャファイター型の格ゲースタイルとしてしまったために(余談だが、終盤まで僕はずっとカズマを女の子だと思っていた)人工知能ラブマシーンがただのゲームプログラムに見えてしまうのはちょっと問題。おかげで、それが人類に破滅をもたらすきわめて危険な存在だという認識が上滑りしてしまった。僕なら某国の原発を二、三基メルトダウンさせて、危機を煽り立てるところだが、なんでも細田監督は作中死人を出さないのがモットーなのだそうで、今回も事件による直接的な死者は出ていないことになっている(間接的には重要な登場人物が死んでいるのだが)
ラブマシーンとの最後の戦いが花札であるというのも面白いとは思うが、観客の大半がそのルールを知らず、ゲーム展開の意味がわからないのでは仕方がない。せっかく直前に栄と健二が一戦交えるシーンがあったのだから、せめて基本ルールくらいは示しておくべきだったろう。それほど複雑なルールというわけでもないのだから。もっとも、それを示さずあえて雰囲気だけで突っ走ってしまうのが、この映画のスタイルなのだろうが。
その他にも、日本人の水戸黄門好きを逆手に取ったような陣内一族の設定(なにしろ警視総監にまで電話一本で指示を出せる立場なのだ)とか、小惑星探査衛星「あらわし」の設定(衛星の軌道変更はそんなに簡単なことではないし、そもそもタイムリミットがある状態で落下地点を自由に設定することなど原理的に不可能)などなど、気になるところがあまりに多すぎる作品であった。・・・
★★★

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