スタトレ劇場版第11作目となる本編は、これまでの映画版からすべてを一新した作品となった。もちろん、人物設定などは基本的にTVシリーズを踏襲してはいるものの、ブラックホールを通過し過去に出現したロミュラン人により歴史が改変され、その結果、登場人物の背景などが微妙に異なるパラレルワールド的世界の話になっている。
監督はJ・J・エイブラムス。
M:i:IIIに続く劇場用映画二作目となる本編は、相変わらず手持ちカメラによる不安定な画面が気にはなるものの、前作に比べるとだいぶ演出の手際はよくなっている。キャラの立て方や単純な伏線など、いかにもテレビ出身の監督らしい部分は変わりないものの、以前よりテンポがぐっとよくなり、緩急のメリハリが効いたドラマ展開は、よく考えるとかなり陳腐なシナリオを、とりあえず飽きさせずに最後まで見せてくれた。
主演のクリス・パインも若き日のジェイムズ・T・カークをそれなりに演じていたが、やはり特筆すべきはスポックを演じたザッカリー・クイントで、彼なくしては本編は成立しなかっただろうと思われるほどの存在感を見せていた。テレビシリーズ
HEROESで超能力殺人鬼サイラー役を演じた人だが、いずれ頭角を現すだろうと思っていたところ、意外に早く映画に進出してきた。サイラーも繊細さと凶悪さを併せ持つ複雑なキャラクターだったが、本編のスポックも理知的な面と時に感情を爆発させる激しさを併せ持つ人物で、なかなか見事なキャスティングだったと思う。いずれ彼は、凶悪犯から小市民まで見事に演じ分けるジョン・リスゴーみたいなタイプの役者になりそうな気がする。
SFXはスタトレではおなじみのILMが今回も担当。きわめて美しく、説得力あふれる宇宙を見せてくれた。とは言っても、もちろんビジュアル的に気になるところもないではなかった。たとえば、エンタープライズ号みたいな巨大な宇宙戦艦を地上で建造するのはいかにも効率が悪いし、ドラマの中盤でカークがエンタープライズ号の内部を逃げ回るシーンなど、どう見ても艦内というよりどこかの古びた化学工場にしか見えなかった。エンタープライズ号はこの時が処女航海で、まだピカピカの新造艦だったはずなのだから、艦内にあんな場所があるはずないと思うのだが^^;
また、シナリオに関しては、密航者同然にエンタープライズに乗艦したカークが、物語の終盤でなぜか艦長の椅子に座ってしまう展開にやや無理を感じた。軍艦には細かい命令系統があり、指揮権の序列もそれによって決まっているはずだ。映画はそのあたりをあっさりふっとばし、副長のスポックが自らを解任すると同時にカークが指揮権を握ってしまう。まあ、ブリッジ内の他の要員にはすべて決まった任務があり、手が空いていた士官は彼しかいなかった、ということなのだろうが、それならそれでもう少し説得力のある就任劇を見せてもらいたかった。
それから、肝心のロミュラン人がスポックを恨む理由そのものもやや弱く、これでは単純な逆恨みにしか見えない。ここはやはり、バルカン人がロミュランの滅亡に関してもっと大きな責任を負っていた、という設定にしたほうがよかっただろう。本編のどこか肩透かしみたいなあっけなさは、やはりロミュラン人の動機にもうひとつ説得力がなかったことに由来していると思う。
ところで、カークが前艦長クリストファー・パイクからエンタープライズ号を受け継ぎ、新しい任務に就くエピソードは、かつて女流SF作家ヴォンダ・マッキンタイアにより小説化されており(「宇宙大作戦ファースト・ミッション」早川書房刊)当然ながら本編とは全然別の話であった。こちらは本編とはうって変わったまったりした展開で、地球の危機などとはかかわりのない話だが、これはこれでなかなか面白く、できれば映像化作品を観てみたかった^^;・・・
★★★★

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