考えてみれば、本編がクレしん映画大暴走の嚆矢であったわけだ。このひとつまえ、「
電撃!ブタのひずめ大作戦」にもその片鱗は見られるものの、やはり「作り手自身が徹底的に楽しむ」というスタイルは、本編で確立されたと見るべきだろう。
一言でいえば本編は、映画マニアのための映画であって、主たる観客層である(とされている)「幼児」はほぼ置いてけぼり。もっとも、以前にも書いたとおり原作は「週刊漫画アクション」に連載されていた大人向き作品であり、「大きなお友だち」のために作られたとしか思えない本編はむしろ、元祖クレしんの本質に迫るものなのかもしれない。
物語は、秩父の温泉に社員旅行で来ていたふたば幼稚園の先生たちが、謎の巨大ロボットに遭遇してしまうところから始まる。その巨大ロボットこそ、「地球温泉化計画」を企む巨大組織「YUZAME」の操る最終兵器だったのだ。一方その翌日、しんのすけ(矢島晶子)は街角で行き倒れている謎の老人を助け、自宅の風呂に入れてやる。その老人(丹波哲郎)こそ実は金の魂の湯に宿る温泉の精霊であり、その金の魂の湯は野原家の地下深くにあった。やがて野原一家は謎の組織「温泉Gメン」に拉致され、その自宅の庭には温泉採掘のためのボーリング塔が建てられた・・・。
話の馬鹿馬鹿しさと裏腹に、マニアックなまでのディテール描写にまず驚かされる。たとえば、「YUZAME」や「温泉Gメン」が使用する小火器類のチョイスなど、へたなアクション映画など遥かに凌駕するこだわり方だし、登場した90式戦車部隊が「景気づけ」に「地球防衛軍マーチ」を流せば、「YUZAME」巨大ロボットも「ゴジラ」タイトル曲を流して自衛隊員をビビらせるという、映画ファン狙いのくすぐりも登場する。
また、温泉の精霊丹波が「おれはジェームズ・ボンドといっしょに風呂に入ったこともある」「本当なんだから仕方がない」などなど、当人を知っていれば必ず笑える台詞を吐くところなど、完全な確信犯。温泉のパワーで超人に変身した野原一家が、一致協力して巨大ロボットにシェー!!させるところなど、「怪獣大戦争」でのゴジラのシェー!!を知らなければ、意味そのものが判らないだろう。
ついでに言えば、巨大ロボットの秩父での登場から春日部にある野原家での大団円まで、物語は一歩も埼玉から出ずに展開する。テレビのロボット進路予想図は埼玉県内にすべて収まるし、チャンネルを次々に替えるシーンでも、12チャンネル(テレビ東京)の次には当然のごとく38チャンネル(テレビ埼玉)が登場する。監督/脚本の原恵一は埼玉出身ではなく、実は僕と同郷なのだが(古くは見城美枝子から、向井千秋、宗次郎、ロバート山本まで、小さな町のわりに有名人が多い)あくまでもローカル色を強調した作り方は、やはり地方出身者のこだわりなのだろうか。
残念ながら、本編においては「作り手の楽しみ」がそのままストレートに感動につながるところまでは行っておらず、そのあたりが興行収益の低迷という結果に出てしまったのだと思うが、翌年の「嵐を呼ぶ!ジャングル」こそ従来の路線に戻ったものの、その次の「
モーレツ!オトナ帝国の逆襲」ではさらに過激なマニアック路線に突き進む。そして三年後、この路線が「
アッパレ!戦国大合戦」という映画史に残る傑作となって結実するわけだ。・・・
★★★★

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