交通事故の後遺症で記憶障害になり、80分過去のことまでしか記憶していられない博士(寺尾聡)と、そこに派遣された家政婦(深津絵里)そして彼女の10歳になる息子( 齋藤隆成 ) が織り成すファンタジーにも似た美しい物語。この種の記憶障害は映画やアニメのネタになりやすいのか、これまでも数本扱っている作品があるが(映画「メメント」「ガチ☆ボーイ」やアニメ「ef-a tale of memories.」など)それらとは一味違う方向にテーマを持っていった試みは面白い。
いまでも「文部省選定(文部科学省か^^;)映画」という制度はあるのだろうか。もしあったとしたら、本編などその第一候補といっていいだろう。少なくとも、「数学」の面白さについて、全編を通して語りかけようとする努力だけは買ってもいい。残念ながら、その試みが全面的に成功しているとは言い切れないが。
博士の話の端々に出てくる数学的雑学は確かに興味深いが、登場する友愛数にしろ階乗にしろ、ちょっと偶然に頼りすぎているのが気になったし(ヒロインの生年月日が一日ずれても、靴のサイズが1センチ違っても成立しなくなる)物語のポイントとなる「博士が愛した」数式(オイラーの等式 )eiπ + 1 = 0そのものの解説があまりに不親切だった(まあ、映画の観客に向けていきなり「ネピア数」とは何か、解説しろといっても無理な話だが)しかし、たとえばSF映画に出てくるお約束のガジェット(ワープ航法とか)だってみんな理解しないまま使っているわけだし、「そういうものがある」程度の認識でもオーライなのかもしれないが。
ストーリィテリング上で残念だったのは、家政婦を依頼した本宅に住む義姉(浅丘ルリ子)と博士との過去が、話にドロドロした現実を持ち込み、設定そのものを下世話にしてしまったこと。この物語では、こうした部分はもっと間接的な、匂わせる程度の演出で十分だったと思う。確かに、手紙や写真という即物的な小道具で描写すれば、にぶい観客にも理解はできるだろうが、そうすることによって失われるものについて、脚本も手がけた小泉監督は意識していたのだろうか。・・・
★★★

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