例の曲のおかげでタイトルだけは有名な映画だが、実際に観たことのある人は意外に少ないのではないかと思う。なにしろ、いまだにDVDすら出ていないのだ。僕自身は当時、三番館で公開されていたのを観た記憶があるが、確たるストーリィのある映画ではなかったので、覚えていたのは断片的なカットのみだった。はっきり言ってしまえば、印象の薄い映画だったのだ。
いろんな意味で本編は「時代と寝ている」映画かもしれない。当時の学生運動の甘さがそのまま主人公の甘さと重なり、映画そのもののシナリオや構成の甘さにもつながってしまっている。主人公のボート部員サイモン(ブルース・デイヴィソン)がちょっとした好奇心から学生が占拠している寮に潜入し、たまたまそこで出会った女子学生リンダ(キム・ダービー)に一目ぼれしてストをしている学生たちの仲間に入り・・・という展開は、原作者ジェームズ・クーネンの実体験らしいのでリアリティがどうのと言っても始まらないが、それにしても、ボート部の描き方などもう少しどうにかならなかったのだろうか。
とにかく物語が行き当たりばったりで、たとえば食べ物を買いだしに行くエピソードなど、寮から反対派の目を盗んで脱出するところはかなり詳細に描いているのに、もっと難しいであろう(なにしろでかい紙袋を抱えているので走るに走れない)戻ってくる場面の描写は割愛されているのだ。運動に参加する動機も、サイモンの場合はまだわかるが、ルームメイトのチャーリーやボート部のジョージとなるとほとんど謎だ。特にジョージはサイモンと反目していて、シャワールームでいきなり殴りかかったりするくらいなのに、それが突然革命に目覚める必然性がまったく見当たらない。
だらだらした展開が急にピシッとなるのは終盤の10分ほどだが、盛り上げ方がなってないので体制側の暴力性にもあまり説得力がないし、州兵や警官隊を導入した張本人である学長も、拡声器で学生に退去を呼びかけるシーンただ一度だけしか登場しない。おそらく、一人称で書かれた原作を尊重してシナリオが書かれているからだろうが、おかげで全体の構図がわかりづらい話になってしまった。
ちなみに、この映画が全米公開されたのは1970年6月のことだが、そのわずかひと月前の5月初旬、オハイオ州ケント大学構内で反戦集会を行っていた学生に対し州兵が発砲、死者4名、負傷者9名を出す惨事を引き起こす(その事件にインスパイアされて、クロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤングは「オハイオ」という政治色のきわめて強い曲を作る)この時点からアメリカにおいても学生運動はお坊ちゃんの革命ごっこから、命がけの政治活動へと変貌して行ったのだが、言うまでもなく本編が撮影されていた当時はまだそれほど切羽詰った状況ではなく、世に出た瞬間に「時代遅れ」になっていたかわいそうな作品といえるかもしれない。
ところで、どうでもいいことだが「白書」は英語ではズバリwhite paperである。この映画の原題は“The Strawberry Statement”なので、本来なら「いちご声明」とでも表記すべきだろう。ま、それが日本語タイトルとしてふさわしいか否かはまた別の話だが^^;・・・
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