井筒監督にとっては数少ないテレビドラマ作品。本編が最初に放映されたのはTBSのドラマスペシャル枠で、たまたま手元にあったビデオテープに録画して、そのままどこかにしまい込んで忘れてしまい、今回の引っ越しで再発見してようやく観ることができた。
本編は実在の殺人犯、合田士郎の手記「前科者」を脚色した実録物である。20歳の時、強盗に入ったガソリンスタンドで殺人を犯してしまった合田(片岡鶴太郎)が、無期懲役刑をくらって15年後、仮出所するところから物語は始まる。仙台の刑務所から仮出所してくる日、寿司を取って彼を出迎えようとしていた大阪の家族の前に、なかなか合田は姿を表さない。新幹線で大阪までは着いたものの、ソープなどあちこち寄り道をしていたのだが、ストレートに家の敷居をまたぎづらい合田の心情や、彼を待ち受ける家族たちの複雑な感情が、生活実感溢れる本物の家屋を使用したリアルな映像と相まって、かなりストレートに伝わってくる。
しばらく家でぶらぶらしていた合田は、自分が殺してしまった男の姉(佳那晃子)からの手紙に感動して意を決し、正業に就くべく職探しに奔走するのだが、保護観察中の身の上のため、なかなか仕事が長続きしない。結局かつてのムショ仲間(内藤剛志)の紹介でキャバレーのボーイの職にありつくのだが、そこで再会したヤクザの親分(宍戸錠)に組員にならないかと誘われ、その事実を保護司(金子信雄)に知られて仮出所を取り消されることを怖れた合田は、結局キャバレーも辞めて再び上京することになる。その後、保護司の紹介で入学したマッサージ学校で、合田はかつて同じキャバレーに勤めていたホステス嬢チカ(河合美智子)と再会する。実は、チカは実直で親切だった合田に密かに想いを寄せていたのだった・・・。
主演の片岡鶴太郎は本編より少し前、「異人たちとの夏」で主人公の死んだ父親役を演じ、演技者として評価されていたのだが、当時まだ「俺たちひょうきん族」や「オールナイト・フジ」などで見かけるお笑いタレントとしての顔しか知らなかった僕は、シリアスな俳優としての鶴太郎に少なからずショックを受けたものだ。また、上記以外にも、犯罪者になってしまった我が子を優しく見守る母に淡路惠子、同じく兄を慕う妹に仁科ふきなど、錚々たる演技陣が脇を固めていた。
記憶では、当時のテレビドラマとしては珍しいフィルム撮りのビスタサイズ作品と勝手に思い込んでいたのだが、今回17年ぶりに観て、普通のスタンダードサイズのビデオ撮り作品であったことが判明して、ちょっと驚いてしまった。テレビ出身の演出家とは明らかに違う絵作り、つまり、セットを一切使わずオール・ロケーションで撮影したリアリズム指向や、いかにも映画を思わせる構図の取り方が、本編をあたかも一本の完成された映画のように見せていて、そうしたイメージを脳内補完してしまったのだろう。普通のホームドラマでは、カメラが撮りやすいようにセットの手前側の壁がなかったりするのだが、本物の併用住宅(作業場と住宅が一緒になっている建物)の中で撮影した本編では、演技者と壁との間にカメラが入らなければならないので、とにかく全体的に狭苦しい。その狭さ、そして適度に薄汚れた調度品の数々が、同時代のテレビドラマにはなかったリアリティを醸し出していたようだ。
いくら自前で金を払っているとはいえ、同業者の作品を独断と偏見で一刀両断にしてしまう「タレント」井筒カントクにはいささか異を唱えたくなるものの、やはり表現者としての井筒監督の手腕には、一目置かなければならないというのが、僕の結論である。・・・
★★★★

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