本編は↓の「インファナル・アフェア」の後日談ならぬ前日談である。前作冒頭の、あっさり描かれた部分をかなり膨らませて、キャラクターに奥行きを与える工夫がなされているが、あっと驚く裏設定なども明かされていて興味深い。
冒頭で描かれている好々爺然とした老人を暗殺するシーンが、後々大きな意味を持ってくる。殺されたのは香港マフィアの大ボス・クワンであり、その後釜を巡って配下の小ボスたちは、血で血を洗う抗争にいやおうなく巻き込まれることになるのだ。実は、その時直接手を下したのは、後に物語を一方で支えることになる若き日のラウ(エディソン・チャウ)であり、彼は小ボスの一人、サム(エリック・ツァン)の妻、マリー(カリーナ・ラウ)のために暗殺を実行したのだった。さらにその暗殺そのものは、組織犯罪捜査班のウォン警視(アンソニー・ウォン)がマリーに教唆したものであり、この辺の人間関係の繋がり具合が、いかにも東洋独特の因果応報思想を思わせる。
やがてラウはサムの手で警察内部に送り込まれ、内通者としての人生を送ることになる。一方、警察学校で彼と同期だったヤン(ショーン・ユー)はウォンに抜擢され、表向き放校という形で潜入捜査官としての人生を歩むことになるのだが、前作でははっきり描かれなかった放校の理由が実は、ヤン自身がマフィアの係累だからと明かされて観客はびっくりだ\(@o@)/
なにしろ彼は暗殺されたクワンの実子であり、クワンの跡目を継いだ長男ハウの異母弟なのだ。なるほど、それでは警察内部には置いておきづらいし、なにしろ血縁者なのだから怪しまれず潜入するのも簡単である。しかし、こんな重大なことをなぜ前作で明かさなかったのだろう??
前作では単にマフィアの大ボスとしてしか描かれなかったサムだが、今回は跡目争いを生き抜くしたたかなボスというよりも、運命の皮肉により生かされてしまった者の悲哀を一身に背負ったようなキャラクターとして描かれていて、彼と対決する立場にあるウォン警視との関係もなかなか面白く(しかし、ここでこんな関係にあったにしては、後の「インファナル・アフェア」の世界ではあまりに単純な警官VSマフィアの立場に戻ってしまっているが^^;)若い主人公たち二人よりも、事実上ストーリィを引っ張る重要な存在になっていた。
例によって小道具にもなかなか凝っており、たとえば物語の発端となる1991年の世界では、登場する携帯電話はとても携帯には向かない巨大なものだったのだが、1997年の香港返還(この物語のエピローグの背景となる)当時にはかなり小型化されている(が、まだ現在のようなビジュアル機能はない)といった案配だ。服装や車、街並みの雰囲気ではたった数年間の差を表現するのは難しいが、年ごとに形が変わっていった当時の携帯電話を使うのは、秀逸な発想だったと思う。
逆にちょっと困ったのが、肝心の主人公二人の雰囲気が似通っていたことだ。ヤンとラウを演じた二人の俳優は前作でも二人の若いころを演じていたのだが、二人とも線の細いイケメン系であり、パッと見の感じがよく似ている。同じ東洋人の僕の目から見てもそうなのだから、欧米人は二人の見分けがつかないのではなかろうか。
それともうひとつ、「インファナル・アフェア」では、冒頭のオーディオ・ショップのシーンまでヤンとラウは互いに面識がないという設定だったが、本編では明らかに顔を合せているシーンがいくつかあり、また、サムとヤン、そしてサムとラウの関係の近さからしても、二人が互いの存在にまったく気づいていないということは考えづらい。これも本シリーズでちょっと気になった矛盾である。・・・
★★★★

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